Tokyo Tokyo Delicious Museum2023

2023

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Chef’s Interview

都内に7店舗を展開する「@ Kitchen (アット キッチン)」は、実力ある若手シェフや飲食店に初期費用や家賃・光熱費0円でキッチンを貸し出してシェフオリジナル料理を提供する、シェアキッチン形式の飲食店です。今回「@ Kitchen」運営者である坂めぐみさんと共に、青山店でフレンチビストロ「Le Défi Osanai(ル デフィ オサナイ)」に出店する長内彰吾シェフと、日本橋店・渋谷店でカヌレ専門店「Canelé de CHIANTI(カヌレ ド キャンティ)」を出店する川又真シェフにインタビュー。@ Kitchen の支援のもと、日々チャレンジを続ける若手シェフのビジョンに迫ります。

東京で飲食店を開くことにハードルを感じていた

長内シェフと川又シェフが開業準備として@ Kitchenを活用された理由を教えてください。

長内:以前は高級フレンチレストランに勤めていたのですが、渡仏を考えたタイミングでコロナが流行してしまい断念。出張料理人をしながら独立の機会を伺っていたときに、初期費用がゼロで出店できる@ Kitchenを知りました。

今後は本格的な独立開業に向けて、自分ならではの新しいフレンチスタイルを確立することに挑戦しています。フレンチのコースをパフェ仕立てで提供し始めたのも、そんな挑戦のひとつです。

川又:私はすでに新潟でイタリアンレストランとカヌレ店を経営しているのですが、東京進出には不安があり、テストマーケティングのつもりで@ Kitchenにカヌレ店を出店しました。

実際に挑戦してみると、東京は市場規模やインバウンド利用こそ大きいものの、料理やサービスの内容・クオリティでは充分に戦っていけると実感。近いうちにレストラン部門でも、東京進出したいと考えています。

坂さんはどんな想いで@ Kitchenを運営されているのでしょう。

坂:@ Kitchenは、お二人をはじめさまざまな立場や展望を持つ飲食業の方が、次のステージに登るスロープのような場所になればという想いで運営しています。それにより、若手シェフが開業リスクにとらわれず、もっと自由にチャレンジできる日本になればと。

例えばグローバルな視点で見ると、日本の食文化は世界に誇れるコンテンツであり、今や海外に多くの日本食レストランが存在します。ところがその経営者は海外の方がほとんどで、日本人経営者の割合は5%ほど。日本の料理業界の守るべきところは守りつつも、海外やインバウンドに日本の食の魅力を広げていける人材がどんどん出てくるようなことに、私たちが貢献できれば面白いですよね。

東京の食は魅力的。だけど課題もある

「東京の食」の魅力について、お考えを聞かせてください。

長内 :東京は世界中の食文化が集まる素晴らしい街だと思います。僕の目標の一つとして、東京でリーズナブルにカジュアルに楽しめるフレンチを提供していきたいというのがあるんですよ。

川又:東京は地方に比べ飲食店の数が多く、またそれぞれのレベルが高いので、美味しい店を見つけやすいというのが一番の魅力ではないでしょうか。やはり地方ですと、良いお店があるとはいえ、点在していることが多いですから。さらに長内さんのような意志を持つ方々が、美味しいけれど値段は控えめという店をたくさん出してくれれば、業界全体のブラッシュアップにもつながると思います。

逆に課題を感じるところはありますか?

川又:料理人の技術に対する価値がもっと高まると良いですね。何というか食材の原価率30%みたいなところでの評価ではなく、料理人の技術が素晴らしければ原価率10%や5%でも、お客さまは喜んでくださるのではないでしょうか。そうすると料理人の地位も上がり、料理人をめざす若者も増え、結果として東京であったり日本の食のレベルが上がっていくのかと思います。

坂:日本の料理業界には、技術継承に閉鎖的なところが少しありますよね。そこはもっとオープンにして、もっと世界に日本の食の魅力を広げていけたら面白いのではないかと思います。@kitchenでもそうした試みのひとつとして、浅草店にてインバウンド向けの「寿司を握る」体験コンテンツをスタートしています。

「東京で食を提供すること」をどう捉えていますか?

川又:東京には食への造詣が深いグルメな方が多いので、料理人も技術はもちろん知識面のレベルをゲストの要求に合わせなければいけません。ですので、自分を常に高めていく意識が必要ですね。ただしそれは地方でも同じで、そうした意識を持たないままでいると、地方の飲食店は沈む一方だと思います。

長内:一方で、東京だからこそ挑戦できる部分が非常にありますよね。これまで世になかったスタイルの料理や業態に挑戦したいと考えた時、地方では厳しいけれど、東京なら受け入れられやすい。

僕は今、串焼きとフレンチのフュージョンスタイルを考案中で、まずはTokyoTokyo Delicious Museum(TTDM)の限定メニューとしてお客さまに提供しようと考えています。フレンチの味や食材なのに、見た目は串料理という面白さにも自信があるので、ぜひ多くの方に楽しんでいただきたいです。

川又:私はTTDMの限定メニューとして、和三盆カヌレを出します。海外の方を意識しての選択なのですが、日本ならではのきめ細やかで旨みの深い砂糖を使った、奥深い味を感じていただきたいです。

ビジョンを持つことが、お客さまからの支持につながる

最後に、皆さんの今後の展望を教えてください。

長内:故郷である広島に、ミシュラン3つ星クラスのフレンチレストラン「グランメゾン」をつくるのが1番の目標です。そのためにもまず東京で基盤を作り、シェフとしての名声を高める必要があると考えています。フランスに店を出すという夢も、いつか叶えたいですね。
川又:冒頭でお伝えした通り、直近の目標はレストラン部門を東京に持ってくることですが、さらに具体的に言うと、毎年ミシュランの星を獲得する店にしたい。新潟ではミシュランに選ばれましたが、ライバルが多い東京で、伸び続けられるレストランとなるのが目標です。

さらに将来的には、1次産業から6次産業までカバーした展開を考えています。例えば良い作物を育てているけれど商品転嫁に苦戦している1次産業の方とコラボして、加工品を開発・販売することなどですね。私の店が星を取れるようになれば、そのネームバリューで販路を広げられると考えています。

坂:美味しい料理は世界中にたくさんありますが、今後その中でシビアに生き残っていくには、シェフ自信が持つビジョンやストーリーが重要だと思っています。世の中の動きとしても、「このシェフを応援したい」というような、シェフのビジョンにお金を払うという時代になってきていますよね、クラウドファンディングのように。

私はIT業界から参入してきた人間なので、@ Kitchenで何かをというのではなく、世の中に必要とされていることをサービスとしてリリースしていきたいと言うのが根底にあります。その観点の中で、日本の食文化は世界から見ても強いコンテンツなので、世界に向けて発信していきたいと思っていますし、それに共感してくださる飲食業界の人がいれば嬉しいですね。