開業は1964年。日本のホテルの中でも“御三家”のひとつと言われる「ホテルニューオータニ」。館内には30店舗以上のレストランがあり、1974年にTVの東京支店開業、1984年にはTA世界唯一の支店開業、その後も和・洋・中・スイーツと常に進化を続け、開館当初から日本の食文化を牽引してきました。
メインダイニング「BELLA VISTA(ベッラ・ヴィスタ)」では、新しい食文化の提案として2022年から“新江戸洋食”をスタート。今年4月から5月末までは、日本フレンチ界の巨匠・三國清三シェフのコラボメニューを展開しました。同ホテル総料理長の中島眞介シェフと、メニューを監修した三国清三シェフにお話を伺いました。
日本が誇る「洋食」を新江戸洋食という新ジャンルに進化
なぜ新江戸洋食を提供するに至ったのでしょうか?三國シェフとのコラボにより完成された新ジャンルの狙いを教えてください。
中島シェフ:「日本独自の食文化を世界に発信したい」という想いがその根底にあります。馴染みのある洋食をホテルならではの厳選食材と技でアレンジし、進化した洋食=“新江戸洋食”として提案しました。
コロナ収束の気配も見えたことで、当ホテルにも海外のお客様の姿が戻りつつあります。インバウンド需要はさらに拡大すると予測されているため、「東京にはこんな美食があるんだ」と一人でも多くの方に知っていただけたら嬉しいですね。
コラボメニューには三國シェフならではの斬新なアイデアをいただいて、あくまでも洋食という枠組みを重視しています。一方で、フォアグラをのせたオムライス、りんごを隠し味に使ったハンバーグなど、懐かしくも新しいメニューも揃えました。
三國シェフ:ここ数年、ロンドンやニューヨークを中心に海外ではオムライス、エビフライ、カツレツといったメニューに人気が集まっています。洋食はもはや世界に誇れる文化です。海外で洋食を味わったことがある外国人の方にも、ぜひこの新江戸洋食を楽しんでいただきたいですね。
今回のメニューには東京をはじめとする国産食材をふんだんに取り入れました。特に野菜選びを徹底し、奥多摩の清流で育ったわさびを使用するなど、細部までこだわりました。実は東京には1万件以上の農家さんがおられ、おいしい野菜や果物がたくさん作られています。そんな東京の食材の豊かさと奥深さのアピールも新江戸洋食の狙いであり、お客様に届けたい大切なメッセージでもあります。
ホテルニューオータニで新江戸洋食をどんな方に召し上がってほしいとお考えですか?
中島シェフ:海外からのお客様はもちろんのこと、日本のお客様にもぜひ召し上がっていただきたいと思います。“新しいカタチの洋食”ではありますが、小さなお子様からご高齢の方まで幅広い年代の方が親しみやすい味わいです。またより多くの方に東京食材の魅力や可能性を知っていただきたいですね。
三國シェフ:僕は京都で10年ほど洋食店を経営していますが、多くのお客様が洋食をリラックスして味わっているという印象です。フレンチにはない“安心感”も洋食のチカラと言えるかもしれません。「ベッラ・ヴィスタ」はドレスコードがなく、肩ひじ張らずに過ごせる場所。一方で内装は洗練されていて、サービスも上質です。「ハレの日」のお祝いとしてお食事を満喫したい方にもおすすめしたいですね。
シグネチャーメニュー『コハダのポテトサラダ』など、他にも江戸前へのこだわりがあるのでしょうか?
中島シェフ:カルパッチョで使用するスズキも東京湾で獲れたものです。また三國シェフのご提案で「江戸東京野菜」を多く取り入れているのもコラボメニューの特徴と言えます。
江戸東京野菜とは江戸時代から昭和中頃、東京周辺で作られていた固定種の野菜です。生産が途絶えてしまった品種も多い中、種を守りながら引き継がれているものもあり、練馬大根など現在50種ほどあります。
新江戸洋食ではそんな江戸東京野菜をサラダバーで用意しています。ぜひこの機会に伝統野菜のおいしさを体感していただきたいですね。
三國シェフ:東京生まれの食材はスイーツにも盛り込みました。「新江戸いちごパフェ」には四ツ谷の老舗「たいやき わかば」で分けてもらった餡子を使用しています。実は欧米人の多くは餡子が苦手。できるだけ多くの方々に楽しんでいただきたいという想いから、パフェには餡子と相性が良いクリームやアイスと合わせました。見た目も敢えてカッコつけすぎず、親しみのあるスタイルにしたのもポイントです。また「新江戸スイーツバラエティ」には八丈島産のジャージー牛乳を使用したミルクジェラートを添えました。東京でもおいしい牛乳がとれることを知れる一皿です。
5月末までフェア実施の新江戸洋食、終了後はどのような企画をお考えでしょうか?
中島シェフ:7月〜8月は「アルポルト」の片岡護シェフ、9月〜10月は「ラ・ベットラ」の落合務シェフとのコラボレーションを予定しています。お二方ともイタリアンの巨匠ですが、洋食を主役としたメニュー開発に前向きに取り組んでおられます。洋とイタリアンがどのように融合し、新たな世界観が登場するのか是非楽しみにしていていください。