Tokyo Tokyo Delicious Museum2023

2023

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Chef’s Interview

よろにく

焼肉の概念を覆し、新たな流れを築き上げた新世代の肉割烹「よろにく」。Tokyo Tokyo Delicious Museum2023シェフズインタビューでは、和牛に対して飽くなき探究心を持つだけでなく、DJという異色の顔も持つオーナーシェフの桑原秀幸にインタビュー。焼肉を進化させ続けるアイデアの原点や、インバウンド利用が広がる東京の食の現場への想いを伺います。

原点は妄想力。美味しいをリミックスさせているだけ

東京の焼肉という概念を進化させた、よろにくの発想力はどこから?

そうですね。僕自身はもともと料理人でもなんでもなく、DJとして音楽活動をしてきた人間なんですよ。もともと食べ歩きは好きだったんですけど、DJって色々な曲を聴きまくって、いいものをリミックスして提供するようなところがあるじゃないですか。それと全く同じことをやってるだけなんです。

いろんな料理がある中で焼肉を選んだ理由としては、師匠でもある焼肉の名店「ジャンボ」さんが好きすぎて、弟子入り前から年間50〜70回ほど通ってたのが始まりです。そのうち僕の癖で、「これもうちょっと、こうなったら面白いな」と妄想が始まりまして。僕はオーソドックスな焼肉も大好きなんですけど、当時はまだ焼肉が他の料理に比べて進化してなかったので、妄想の余地があったんですね。まだこういうことできるじゃん、みたいな。
当時高級焼肉といえば、スーツや着物の人がお客で、高い肉を食べさせるところといった感じだったんですけど、フレンチみたいにコース仕立てでサーブをしてくれるようなものってなかったんですよね。高級外資ホテルが日本にどんどんできてきてるタイミングだったので、そういうホテルに焼肉店が入るとしたらというのを勝手に妄想してできたのが、よろにく青山店です。原点は妄想ですね。

DJと較べて食の世界はどうですか?

食のほうがダイレクトな印象を受けます。もちろんDJの時もお客さんの顔をみながらやってたんですが、食のほうが直接脳に響くことが多いような気がします。口に入れた瞬間、顔が変わるんで。
構成的にはハリウッド映画みたいなものをイメージしてます。フックがあって、クライマックスに到り、さらにもう一山あって、優しいエンドロールを迎えるような。やたら高級食材ばかりをドカンドカンぶつけるというようなものではなく。僕はご飯やさんではあるんですけど、舞台役者みたいな気持ちでやってるんですよ。うちの料理は「作品」で、それを毎日自分が演じているというような。

今の東京の食シーンの中で、よろにくの価値ってどんなところにあるとお考えですか?

周りはあまり気にしていないのですが、自分しかできないことをやりたいという気持ちはすごくあります。

ヒップホップもテクノも、音楽ってそれまでなかった新しいものを生み出す人たちがたくさんいたでしょう? 僕はヴァン・ヘイレンが大好きなんですけど、エディのやったことを焼肉で再現できないかなと妄想しちゃってる部分はありますね。

世界には本当に美味しい和牛はまだまだ届いていない

インバウンドの入りはどうですか?

うちのインバウンド率はめちゃくちゃ高いです。恵比寿店なんかは8割がインバウンドですね。海外の方を狙っているわけではなくて、日本人の方も平等なんですけど、外国人の方の予約は早いんですよ。ネット予約が可能となる2ヶ月前に即予約を入れてくるため、どうしても予約枠が外国人の方で埋まってしまうんですよ。

日本人と較べて海外の方の食べ方とかはどうですか?

勉強してますよ。肉の部位も知ってますし。
最近の変化としては、アジア圏だけでなく欧米やオーストラリアからのお客さまが増え、以前は敬遠されていた牛タンも食べられるようになりました。これは海外の食通の人たちが発信するSNSの影響かもしれません。

なるべく世界の多くの人にうちの料理を知って欲しいですね。焼肉自体もそうだけど、和牛というものも知って欲しい。ただ海外にでている和牛はあまりよくないものもあるので、ちゃんとした和牛を食べさせてあげたいと思ってます。
すごく残念な話なんですけど、海外では日本から輸出された和牛より、オーストラリア産のWAGYUのほうが美味しいことも多いです。なんとかしたいですよね。

WAGYUってもはや日本のものだけではなくて、最近はタイ産のWAGYUもありますが、お食べになられましたか?

食べました。悪くないですよ。タイの凄いところってお金持っている人が本気で開発するところなので、もしかするとすごく美味しいWAGYUが将来でてくるかもしれないですね。

今後、東京の飲食はどう変わっていくのでしょう。

二分化していくと思います。海外の富裕層を相手にする部分は、今後ますます伸びるでしょうね。その一方で、再開発で安くて魅力ある飲み屋街が消えていっているのが気になります。インバウンドにとって、新橋の高架下のような雰囲気ある場所での飲食も魅力です。綺麗なだけのビルは世界中どこにでもあるので、雰囲気のある場所は、残していって欲しいですよね。変わり映えしない街ばかりになると、逆に観光客が来なくなるのではと思います。
あと、海外のレストランだと爆音でBGMが流れているレストランもあるんですけど、そういう店って東京にはないので、そんな店がでてくると嬉しいですね。