Tokyo Tokyo Delicious Museum2023

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Chef’s Interview

金子半之助

東京の食に欠かせない「江戸前」というキーワード。そのなかでも庶民に親しまれてきた料理といえば天丼ではないでしょうか。日本橋に本店をもつ「金子半之助」は、粋で豪快をモットーに、庶民のための天丼を追求し続けてきた店。代表のひとりであり、Tokyo Tokyo Delicious Museum2023(TTDM2023)で期間限定販売する「江戸前天丼ノあたま」の開発責任者である大塚大介さんに、江戸前への心意気を伺いました。

秘伝のタレが染み込んだ天丼を、豪快に食してほしい

金子半之助が「庶民のための天丼」にこだわる理由を教えてください。

当店の店名となった金子半之助は、創業者である金子真也の祖父にあたる人物で、和食界の重鎮だった方です。彼は生前「庶民の食べ物だった天ぷらが、高級な食べ物になってしまった」と、江戸前の行方を危惧する言葉を残していました。その想いを継承し、庶民のための天丼店を始めたのが当店になります。

金子半之助の天丼は「粋で豪快」をモットーにしています。粋な価格でありながら、天ぷらが豪快に盛り付けてあり、ご飯が進む濃いめの味が特徴です。天ぷらは、秘伝のタレがしっかり染み込むよう衣を厚めに、濃いめのごま油で揚げています。半熟卵の天ぷらを入れているのも、途中で黄身を崩して味変してもらうのが狙い。いわゆる高級店とは真逆の、丼飯をかき込みたくなる天丼をめざしています。

また秘伝のタレは、金子半之助が残した「江戸前の丼たれ」のレシピを使用。濃い目ながら控えめな甘さが特徴で、東京の庶民が愛する味だと自負しています。

江戸前を担う店のひとつとして、大切にしている流儀はありますか?

「一品に魂を込めて、とにかく美味しいものを」という気持だけで、気取ったことは考えていないんですよ。実は当店の日本橋本店では、江戸前天丼だけしかメニューにありません。一品に魂を込めるうちに、自然とそうなりました。

ただし本店を日本橋に構えたのは、江戸前としてのこだわりですね。築地市場ができるまで東京の魚市場は日本橋にあり、新鮮な海の魚介を使う江戸前の心意気を、立地でも示したい想いがありました。

一品に魂を込めて。金子半之助の粋を世界中に届けたい

TTDM2023で限定販売する「江戸前天丼ノあたま」について教えてください。

我々の天丼を東京の方だけでなく、店舗にいらっしゃるのが難しい方にも召し上がっていただきたいなというところから開発した、当店の看板商品でもある江戸前天丼のあたま(丼の具)を最新の冷凍技術を用いて瞬間冷凍した商品です。もしかしたら一般的ではないかもしれないのですが、当店では丼の具を「あたま」と呼んでいたため、それが商品名になりました。

今やさまざまな冷凍食品が販売されていますが、天ぷらの冷凍食品化は難しく、解凍したときに匂いが出たり衣がふにゃふにゃになりがちです。ですが今回、最新の冷凍機器と出会ったことで開発が可能になりました。ブラストチラーという機器なのですが、揚げたての天ぷらを最大-40℃の冷気で急速冷却することで、美味しさ・香り・水分を封じ込めることができるのです。

とはいえ開発までには1年半ほどの試行錯誤がありました。当店の江戸前天丼の具には、半熟卵など冷凍に向かないものもありましたので、具の見直しからら始まり、解凍したときに店で召し上がっていただく天ぷらと遜色ない仕上がりになるよう、油の温度や揚げ時間、衣の水分量など細やかな調整をかなり行いました。結果、店で出すものに限りなく近い味・食感、衣に綺麗に花が散った仕上がりを再現できる仕上がりとなりました。

今後、「江戸前天丼ノあたま」での世界展開などもお考えですか?

まだ開発したばかりで、店舗販売やネット通販をどうするかも議論の段階で何ともいえないのですが、日本はもちろん世界中まで、多くの人に我々の天丼を召し上がっていただきたいという気持ちはあります。でも、金子半之助のクオリティが保てないような展開はしたくないと考えています。 我々はただ、一杯の天丼を心ゆくまで楽しんでいただく努力を続けてきただけ。その姿勢や心意気は、これからも変わらないと思います。