Tokyo Tokyo Delicious Museum2023

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Chef’s Interview

堤亮輔

2013年に学芸大学駅にオープンしたカジュアルイタリアン「Ri.carica(リ・カーリカ)」をはじまりに、現在都内に6店舗を運営する堤 亮輔さん。都心ではなく住宅街で店を始めた堤さんが考える、新しいレストランの在り方とは? ナチュラルワインや無農薬野菜にこだわる姿勢や、東京だからこそできる地方や世界とのつながり方まで、さまざまにお話しいただきます。

家に帰ってくる感覚で利用できるレストランを

都心ではなく、あえて住宅街にレストランを開いた理由をお聞かせください。

学芸大学駅に「Ri.carica(リ・カーリカ)」を開いたのは10年前…僕が34歳のときです。それまでは主に山手線の内側、西麻布や恵比寿、渋谷の松濤なんかの店で働いていたんですが、30歳から独立まで働いたのが駒沢というベッドタウンで。その店の、お客さまが家に帰ってくる感覚で店を利用してもらえる雰囲気にとてもやりがいを感じたんですよ。それで山手線の内側から少し外れているけれど人の行き来があり、感度の高い人が住んでいる場所をと考え、学芸大学駅というエリアに出店しました。

僕がやりたかったのは、質の良い物を気軽に食べていただけるカジュアルなイタリアン。加えて、個性豊かなナチュラルワインの魅力を知ってほしいという想いが強かったのですが、結果的にその辺りが、エリアにはまったのではと思います。

Ri.caricaとは「元気回復」や「再充電」という意味だと伺いましたがそれにはどういう思いがありますか。

レストランって、総合芸術みたいなところがあるんですよ。よくスタッフに「僕らはコーディネーターなんだよ」という言葉を使うんですが、美味しい料理やサービスはもちろん、ワインのチョイスでも生産者のストーリーを演出してお客さまに届けたりと、総合的に楽しんでいただける店の空間というか雰囲気を提供することが大事だなと。

料理もね、疲れた体を充電するような美味しくで体に馴染むナチュラルなものを提供することにこだわっていますし、日常的に食べてもらいたいんだけど、特別感がちゃんとあるものをと考えています。そうした料理から雰囲気までの全てを通じて、お客さまに元気になっていただきたいというのが思いとしてありますね。

地域性がないからこそ、どんな地域ともつながれるのが東京

Ri.caricaで食事をしていると、スタッフのチーム力の強さを感じます。

ありがとうございます。そうですね、今、系列店が6店舗まで増えたのですが、5店舗目までは社員だけでやっていた。外からシェフを引っ張ってきて店を増やしたのではなく、スタッフが育つことで自然と店が増えたんですよ。仲間の成長とともに店が大きくなっていくという感覚。なので、側から見てもスタッフの仲の良さというかチーム力が感じられるのかもしれません。

僕自身サッカーをやっていたので、仲間意識が強いところがあります。みんなで繋いだボールでゴールが決まった瞬間って最高じゃないですか。そういう少年の心みたいな部分で店をやっているところはありますね。いらしてくれたすべてのお客さんが喜んでくれて、スタッフからいい循環でパスができている日ってあるじゃないですか。ああいう日をどれぐらい創れるのか、っていうのが大事なところなのかな、と。

Ri.carricaさんのお店に伺うと、そんな「楽しさ」みたいなところが感じられますよね。チーム力を強くする秘訣みたいなものってあるんですか。

僕は共感力が強いほうで、目の前にいる人が悲しい顔をしてると自分も悲しくなっちゃうタイプなんですよ。だからよく会話をしてきたというところはあるかな。
あとは、Ri.carica出店からの10年、ずっと走り続けてきたし、新しいことにどんどんチャレンジしてきたので、それにスタッフたちが必死に食らいついてきたことで今があるのかな。今もシェフを中心とした創業時からのメンバーは変わらず残ってくれているんですよ。僕自身も、働きたくなるような会社作りみたいなそういったものをかなり意識してますね。ただ、今だからこんなことも言えるけど、昔はもっと相談しにくい上司だったんじゃないかな、とは思います。

最後に、堤さんが東京の食について考えるところやその可能性についてお聞かせください。

飲食の世界って慢性的に人不足になってきているし、僕らの店は東京にあるので、どうしたら地方の若い人が東京に来たい、東京の食シーンで働きたいと思ってくれるか、というのはずっと考えています。

僕は、東京っていうのは地域性がない分、いろんな地域とつながれる場所だと思うんですよ。例えば地方のお店にいくと、その地域の中で出来上がる世界感があって、つまり地産地消っていうことなんですけど、とても魅力的な反面、そのことがシェフにとっては制約だったりもするわけですよね。地域産の食材を使わなければならない。だけど僕らは地域性がない分、充実したいろんな食材を使えるわけです。いろんな地域に顔をだして、その地域の食材とつながることもできる。つまり「日本」として動けるんです。地域性がないことが多様性につながり、チャンスとして転がっている、それが東京だと思うんです。

うちはイタリアのナチュラルワインを扱っていますが、その生産者とも今はオンラインなどで簡単に繋がれます。東京と地方との距離感が縮まっている中で、いろんな食材にも出会える、っていうのは間違いなく言えますね。東京にいると、「どこにでも行ける」可能性を感じます。