北海道でイタリアン2店を開業、自らの名を冠した広尾「長谷川 稔」の立ち上げを経て、都内で数々の人気店のプロデュースを行う長谷川稔シェフ。自由な発想で生まれる美皿は多くのフーディーたちを魅了してやみません。パリ生まれのレストランガイドブック「ゴ・エ・ミヨ2019」では“明日のグランシェフ賞”を獲得するなど、国内外から注目を集めます。2023年4月には神田に鳥料理専門店「飛鳥くら田」、東急歌舞伎町タワーにイノベーティブダイニング「朗 長谷川稔Lab」をオープンするなど、その勢いは止まることを知らず。いま、各方面から熱い視線が注がれている長谷川統括料理長と長谷川稔グループオーナーの佐藤さんに、新店でのこだわりや次なる仕掛けなどをお聞きしました。
国内外のフーディーに対して新しい業態(スタイル)を常に提案
改めて今回デリシャスミュージアムに出店いただく「飛鳥くら田」とはどんなお店なのでしょうか。
長谷川:鶏肉は安いイメージがあると思うんですよね。でも実はちゃんと育てようとしたら大変で、お金もすごくかかる。鶏一羽一羽をを大事に育てていくって本当に大変なことなんですよ。でもどうしても鶏肉ってお手軽なイメージがついてしまっている。手間暇惜しまず育てたお肉をお出しして、鶏肉のいいところを皆さんに知っていただきたい。そんなお店です。
「飛鳥くら田」で提供される地鶏のこだわりを教えてください。
長谷川:自社養鶏場で餌と環境に徹底的にこだわり、丹精込めて育てた地鶏の「雌」のみを使用していることです。
長期肥育であることは大きな特徴で、通常ブロイラーは40〜50日、地鶏は90日ほどですが、当社では240日以上育てています。地鶏と言うと、噛みきれないほど固いこともありますが、雌限定で長期肥育することにより柔らかく食べやすい肉質になります。もちろん普通のブロイラーよりは固いんですけど、地鶏特有の噛み切れないほどの固さは無くなる。
それから鶏油がとにかくおいしいです。融点が低くて香りが高い。この鶏油の味を楽しんでいただくために、お出しする時もあえて鉄板で、鶏肉自身の油で焼くようにしています。
お店のコースの締めにお出しする卵かけご飯にはこの鶏油を添えているんですが、多くのお客様からお褒めの言葉をいただいています。
千歳市と江別市でイタリアンを開業後、東京へ進出した理由とは?
長谷川:自分がやりたいという目標があって、それには東京が最短だと思ったからですね。北海道にいた頃から東京に来ては食べ歩いており、常に自分の味や技と比較していました。数々の名店を食べ歩く中で、ある日「自分はきっと東京でもやれる」と確信して。生意気に聞こえそうですが、僕が打ち込んできたこと、培ってきたことは、東京でも遜色ないと思えました。
でも進出当初は丸々1年休まずに働き続けたり、かなり苦労しましたね。スタッフの協力のおかげもあり、いつしか多くのお客様にご支持いただけるようになり、なんとか軌道に乗れたという感触です。
今興味があるものや、注目している食材は何かありますか?
長谷川:うちの鶏が良いと思います笑。
佐藤:品薄の影響もありますが、ありがたいことに実際に卵も全て売り切れているような状況です。
今興味があるのは、薬とか使わずに健康的に育てた食材です。
ブロイラーを自分たちで健康的に育てたら美味しいのか、という実験をしてみたんですが、それが美味しかったんです。今後のレストランの道として、健康的に育てた食材を美味しく調理する店、というのはやっていて楽しいかもしれないと感じました。
もちろん、それがどこまでお客さんに伝わるかというのは、なかなか難しいところだとは思うんですが。実際に豚と羊は北海道でテスト的に飼育を始めています。
構想中の次なる仕掛けについてお聞かせください。
佐藤:オーベルジュのようなものを年末に宮崎で建てようとしています。
東京は全国のおいしいものが集まってくるんですが、やはり地方でしか食べられない、ギリギリのところのおいしいものってあると思ってるんですよ。
そういうそこでしか食べられないギリギリのところを食べられるレストランが全国にたくさんあると、素敵だよね、っていうのは元々話していて。それをまず宮崎から実現できればと。
そこならではのいい食材が確保できていて、全国から色んなシェフがそこに料理をしに来てくれる。宿泊もできる。というようなものができれば良いなと考えてます。
長谷川:あとは東急歌舞伎町タワーに新しく開いた長谷川稔Lab.です。まだ宣伝活動をしていないので何とも言えないですけど、アクセスは5万件ほど来ていると聞いていて。現在は私は歌舞伎町に毎日いるのでたくさんの方に来ていただけると嬉しいですね。