東京の美味しいものを聞かれたら、あなたは何と答えるでしょう。
世界中の多様な食が集まり、発展させることで、独自の食文化が生まれる街、東京。
江戸の伝統野菜をはじめとした様々な食材の産地でもある、東京。
東京ならではの「ガストロノミーツーリズム」が、あなたを待っています。
さあ、でかけましょう!
伝統の技法と革新的なアイデアを凝らし、東京の食文化を紡ぐ料理人たちに会いに。
それは、きっとあなたの旅の、忘れられない1ページとなるでしょう。
さあ、でかけましょう!
東京の気候風土が生んだ自然の恵み。
そして、食材の一つひとつに込められた生産者の想いやストーリー、そして笑顔に出会いに。
それは、きっとあなたの日常に、新しい気づきを与えてくれるでしょう。
その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、
その土地の食文化に触れることを
目的とした旅のこと。
知って、学んで、味わう時間が、あなたの旅を彩ります。
東京の食の魅力に触れる旅。
楽しみ方、巡り方は訪れる人の数だけ。
これからご紹介するのは、その楽しみ方のほんの一例。
「あなたの美味しいひと口」を探す食の旅、考えてみませんか?
のどかな田園風景や多摩川の渓谷美、そして神の領域とされる御岳山。
青梅線沿線には、自然と伝統に彩られた風景が広がっています。
今回の旅人は、東京観光大使を務める山下春幸シェフ。
新鮮な野菜、清流で育つ川魚、名水でつくられる日本酒など
多摩の風土に根差した食体験を通じて、新たな発見と人との出会いを楽しみます。
HAL YAMASHITA東京 オーナーシェフ、慶應義塾大学大学院特任教授、兵庫県神戸市出身。世界各国で修業を積み、独自の視点、料理技術を用いて、伝統的な日本のスタイルに斬新な食材の組み合わせを取り入れた料理は「新和食」と呼ばれる。2010年シンガポール、2012アラブ首長国連邦にて世界グルメサミットに日本代表として出場し、2010年には「その年の最も優れたシェフ」として称された。
現在は、「新和食」のパイオニアとして国内外にて活動中。また、現役の大学教授兼シェフとして世界的環境や飢餓問題にも取り組み、教育活動を行う傍ら、農林水産省、経済産業省、外務省と連携し、日本食や日本の食文化等の啓蒙活動を含む多くのプロジェクトに尽力している。
https://www.instagram.com/chef_halyamashita/
最初に訪ねたのは、JR青梅線の古里駅と鳩ノ巣駅の間に位置する「Satologue(さとローグ)」。地域でとれる食材を活かしたレストラン「時帰路(ときろ)」と、薪ストーブのサウナ「FUKISUI」を備えた施設で、2024年5月のオープン以来、多摩川を眺めながら過ごせる場所として人気を集めています。
ランチは完全予約制で、食事前にはレストランの目の前にある畑を散策できるとのことで、この日は駒ヶ嶺侑太シェフが案内してくれました。畑には、わさび田や自家農園があり、レストランではこの畑で栽培された無農薬野菜をはじめ、地元の野菜が使われているそうです。
「僕はこの施設のオープンに合わせて都心から移住してきたので、畑仕事は初めてで。地元のおじいちゃん達に教えてもらいながら野菜作りをしています。今はサツマイモとキクイモ、オクラ、ハラペーニョ、ブロッコリー、ホウレンソウなどを作っています」と駒ヶ嶺シェフ。
畑にいると、近くにある清身滝(きよみだき)の水の音と鳥のさえずりが聞こえてきます。そんな自然豊かな環境だからこそこの畑では循環型農業を目指し、サウナで薪を燃やした際に出る灰を肥料として撒くほか、レストランで出た生ごみはコンポストにし、さらに堆肥作りもしているそうです。畑に灰を撒く作業を手伝っていた山下シェフは、「花咲かじいさんの気分だね、おー!ここに、大きなカマキリがいる!これほど自然あふれる場所で野菜作りができるのは、同じく食に関わる者として羨ましい限りです」と、この時間を楽しんでいました。
レストランは築130年の古民家を改装していて、元は川魚の養殖を行うお宅だったとのこと。正面の大きな窓の向こうには里山の木々と多摩川の清流が一面に広がっていて、ここが東京であることを忘れそうになります。窓に向かって設えられた、掘りごたつ式のカウンター席に座った山下シェフは、目の前に広がる里山の雄大な景色に「おお!」と感嘆の声を漏らします。その席は床より一段低い場所に座面があり、眼下に広がる多摩川や畑を深い角度で眺められるだけでなく、体の重心を下げることで自然に溶けこんだような感覚が得られるよう工夫されていました。山下シェフも、その心地よさにしばらく浸りながら「この建物の設計はよく考えられていて本当に素晴らしいですね」と、感動していました。
この日の料理は、里芋のポタージュ 自家製醤(ひしお)、原木椎茸と烏骨鶏卵のタルト、天然鮎の炙りと秋茄子、落花生のラビオリ 柿と東京シャモ、東京和牛の炭火焼 和牛の出汁と自家製味噌のソース、いちじくの葉のブラン・マンジェ。まさに多摩地域で生産される食材がぎゅっとつまったコースです。
しかも駒ヶ嶺シェフの料理説明には「隣のおばあちゃんからもらった小松菜をピューレにして…」や「隣のおばあちゃん家の柚子で作った柚子胡椒と畑で採れたハラペーニョで…」などの話が添えられていて、一品一品の料理に地元の皆さんの温かみが感じられます。
「うーん!おいしいです。素材の味がちゃんと感じられるのがいいですね、素材や里山らしさをつぶさず、限られた食材でこのクオリティに仕上げるのは本当に素晴らしいと思います」と山下シェフも大絶賛。
「ここで、どんなことをお客様に伝えていきたいですか?」
山下シェフの質問に、駒ヶ嶺シェフはこう話します。
「2025年春には敷地内に宿泊施設が完成するので、ここからの景色や、ゆったりした時間、季節の料理を楽しんでもらいたいですね。僕自身、都心から移住してきて、東京和牛や西東京のシャモ、無農薬野菜など、いろいろな食材が東京にあることを知りましたし、隣のおばあちゃんやおじいちゃんから野菜をもらって、東京でもこんな触れ合いがあるんだ!と驚きました。都心から1、2時間電車に乗れば、自然豊かでふるさとを感じられる場所があることを伝えていきたいです」。
店を後にした山下シェフに改めて感想を聞くと「今後、宿泊棟ができるとのことで、この場所の良さがさらに活かされると思います。駒ヶ嶺シェフの話に、近所のおじいちゃん、おばあちゃんがたくさん登場していましたが、シェフが地域のコミュニティにしっかりと入っている感じもいいですよね。レストランの空気感も含め、間違いなく、足を運びたくなる場所になるだろうし、多摩のガストロノミーツーリズムの中核的な場所になっていきそうですね」と期待を寄せていました。
次の目的地、武蔵御嶽神社は、標高929mの御岳山山頂にあります。滝本駅からケーブルカーに乗り、高低差424mを一気に登って御岳山駅へ。そこから武蔵御嶽神社までは歩いても行けますが、リフトに乗り継いでさらに上へ。御岳山から都心方面に向かって壮大な風景が出迎えてくれます。
宿坊※が連なるエリアを抜けて急坂を登ると、茶店や土産店が並ぶ昔ながらの商店街があります。「ちょうど休みたい場所に茶店があるなぁ。ここから階段か!意外ときついね」と、山下シェフは苦笑いしながら、新鮮で清々しい山の空気を胸いっぱいに吸い込んでいました。
※宿坊…神社や寺院のそばに設けられた、参詣者や氏子、僧侶のための宿泊施設。現在は一般の旅行者を受け入れているところが多いです。
朱(しゅ)塗りの幣殿・拝殿で迎えてくれたのは禰宜(ねぎ)の靱矢(うつぼや)正さんです。靱矢さんのお話によると、武蔵御嶽神社は第10代崇神(すじん)天皇時代の創建とされる古社で、集落内に34軒ある「社家(しゃけ・神職を世襲とする家柄)」の人々が神職を務めているそうです。「親、子、孫の3世代で神職の資格を持つ家も多いので、集落全体では60人以上の神職がいます。地域が一体となって神社を維持しています」。
こちらの神社は古くから農業の守り神としても知られていて、毎年1月3日には、その年の作柄を占う神事、太占祭(ふとまにさい)が行われています。秘事のため公開はされませんが、牡シカの肩の骨を火であぶり、ヒビの入り方で25の作物の作柄を占うとのこと。この占いがよく当たると、農家の方から厚く信仰されてきたといいます。
江戸後期にはお伊勢参りをきっかけに、庶民が遠方の有名な神社や寺を参拝する寺社詣でが流行しました。人々は「講」と呼ばれる、寺社詣でを目的としたグループを集落単位や仲間同志で作り、毎年お金を出し合っては、講の代表者数名を順番に寺社詣でに送り出しました。古くから農業の守り神とされてきた武蔵御嶽神社には、多くの農村から講の代表者がこぞって参拝に訪れるようになり、神社の周辺には講の人を泊める宿坊が増えていったそうです。
その頃、武蔵御嶽神社で信仰を集めたのが、境内の大口眞神社(おおぐちまがみしゃ)で祀られているニホンオオカミの「おいぬさま」です。靱矢さんは「おいぬさまは、日本武尊(やまとたけるのみこと)の遣いで、御岳山を魔物から守るとされる存在です。農家にとってオオカミはシカやイノシシ、ウサギなど畑を荒らす動物を退治してくれる存在ですから、絶大な信仰を得ていました。江戸時代、講の人たちはおいぬさまの御札を買い求め、集落の人達に配ったそうですよ」と話します。
さらに境内の巨福社(こふくしゃ)には土の神様、埴山比女神(はにやまひめのかみ)が祀られており、巨福社の周りの土を持ち帰って畑に撒くと害虫被害が防げるとの言い伝えも。靱矢さんによると、御岳山までわざわざ土を取りに来て、畑に撒く農家が多く、巨福社周辺の土がなくなってしまうので、今では祈祷した砂を販売しているそうです。歴史的に武蔵御嶽神社が農業や食に深い関わりがあることを学んだ山下シェフでした。
「うわぁ、ここからの眺めも素晴らしいね」。
山下シェフが思わず声をあげたのは、武蔵御嶽神社の参道から脇道を進んだところにある小さな畑。山の9合目あたりの斜面を切り開いているため、多摩の山並みはもちろん、はるか彼方に都心の高層ビル群も見渡せます。視界の大半を占めるのは広い空。まさに「天空の畑」です。
*畑は一般開放されていません。今回は特別に畑に入れていただきました。
ここで野菜を栽培しているのは、「宿坊 能保利(のぼり)」のご主人、久保田直之さん。御岳山は山全体が神域であるため、山の中の畑はすべて神職の方々が所有しているとのこと。
この日は三浦大根や練馬大根、青首大根などが収穫時期を迎えていたため、山下シェフも大根の収穫をすることに。久保田さんのアドバイスは「外側の葉を少し落として抜いてください」というシンプルなひと言でしたが、それもそのはず、葉の根本を引っ張れば、あっけないほどするっと抜くことができました。大ぶりなもの、小ぶりなものと楽しみながら収穫していきます。
「いい出来ですねえ。やっぱり土がいいんだろうなぁ」と山下シェフが感心していると、「標高が高いのも野菜にはいいみたいです。かぼちゃや長芋も煮崩れしないとよく言われますね」と久保田さん。標高が高い故の寒暖差の厳しさや、山の養分をたっぷりと含んだ土、さんさんと注がれる日差しなど、天空の畑には野菜作りに適した条件が揃っていました。一方で、イノシシやシカによる被害はあるそうで、「今年の春はイノシシに男爵イモがやられたんで、みんなで協力して畑を柵で囲んだんだけど、それでもシカは入ってくるね」と、久保田さんは話します。
農業は自然や生き物たちの脅威とも常に隣り合わせ。農家の方が武蔵御嶽神社にお参りし、豊作を願う気持ちが痛いほど伝わってきました。
久保田さん一家が営む「宿坊 能保利(のぼり)」は、江戸後期創業の歴史ある宿坊です。先ほどの「天空の畑」をはじめとする自家農園の野菜を使った料理が人気だそうで、この日も庭には、収穫されたこんにゃく芋と長芋が並べられていました。
大広間には贅沢な食事が用意されていて、久保田さんの娘で女将の佳代子さんによると、野菜の陶板焼き、酢の物、煮物などは自家栽培の野菜を使ったもので季節によって内容が変わるとのこと。奥多摩の川マスをオリジナルの味噌で味付けして朴葉(ほうば)で包み焼きにした一品も名物料理だそうです。
「精進料理ではないんですね」。
山下シェフの質問に、同席していた靱矢さんが答えます。「お寺の宿坊では精進料理が提供されることが多いですが、神社の宿坊の場合、食事の制限はありません。それに神社参拝に直会(なおらい・打ち上げ)はつきもの。お詣りの後は、お酒が好きな方は多めに召し上がってください。参拝で神様に近づき過ぎている状態ですから、人の体に戻るには直会でお酒の力を借りるのがいいんですよ」。
「それじゃいただきましょう!乾杯!」。
早速、地元酒蔵の小澤酒造の澤乃井で乾杯し、食事が始まります。
※お酒は無理に飲む必要はありません。
ふっくらと味が染み込んだ大根煮は爽やかな柚子味噌と相まって口の中でほどけるよう。「もしかして、さっき採った大根?いやぁ、最高!これはおいしい」と山下シェフも満面の笑みがこぼれます。名物の刺身こんにゃくは、箸でつまむとずっしり重く感じられるほどのみずみずしさ。こんにゃくの香りとつるんとしたのど越しに、生姜醤油のぴりっとした辛味がよく合います。
「宿坊って、普通の人が泊ってもいいんですよね?」と、山下シェフが確認すると、佳代子さんが「大丈夫です。昔は農家の講の方が中心でしたが、最近はネットで予約される一般の方も増えています。日本文化に興味を持つ海外のお客様も多いので、お互いにスマホで翻訳しながらやりとりしていますね」と話します。一般的な旅館との違いは、神職が営む宿であること、広間などに神殿が設けられていることなどで、講の人たちが泊まった際は、神殿でお祓いをしてから神社に参拝するそうです。
「でも最近、農家は減少傾向にありますし、講でお詣りする方も減っているのではないですか?今後、宿坊はどうなっていくのでしょうか?」
山下シェフの素朴な疑問に、靱矢さんはこう答えます。「私たちも情報発信をしてきた甲斐あって、一般の方の利用が増え、リピーターも多いので、昔ながらの宿として生き残っていけると思います。御岳山は山全体が神域という特別な場所ですが、そこに暮らす人たちがいて、昔ながらの食文化もあり、山の上の宿坊に泊まっていただける。掘り尽くせないほどの魅力があります。ですから、私たちは御岳山に『ただの山、じゃない』というキャッチフレーズをつけているんですよ」。
「なるほど。まさにその通りですね。観光資源も多いし、ここから宿坊ツーリズムが広まっていくとおもしろそうですね。今日1日で発見したのは、都心から多摩を訪れると、人の作った野菜、料理というものが強く感じられるし、コミュニティに入れてもらったような気分になれるということ。それは都会にはない多摩のガストロノミーツーリズムの魅力だと感じます」と、山下シェフも納得の様子でした。
江戸の庶民は寺社詣でをきっかけに、よその土地を目指し、宿坊に泊まり、その土地の食や観光などを通して、旅の楽しさを知っていきました。当時、武蔵御嶽神社を参詣するために御岳山の宿坊に泊まった旅人たちは、豊かな自然が育んだ山の幸、川の幸のおいしさに感動したことでしょう。そうした多摩の食文化やホスピタリティは今も受け継がれ、この土地に息づいています。
先人たちも利用した歴史ある宿坊で自慢の伝統料理を味わえるだけでなく、さとローグのように里山のガストロノミーを未来へつなぐ新しいスポットが広がりをみせているのも、この地域の懐の深さであり、おもしろさ。東京の西側に位置する多摩の風土、そして歴史と伝統に根差した豊かな食文化は、じっくり旅するほど惹きこまれる、奥深い魅力を秘めています。
ご協力いただいた施設・お店をご紹介します。
60年前まで川魚の養殖を営んでいた古民家を改築した施設。地元の幸×フレンチのコース料理を楽しめるフレンチレストラン「時帰路(ときろ)」と、フィンランドスタイルのサウナ「風木水(ふうきすい)」を備える。2025年春に宿泊施設もオープン予定。
御岳山の山頂に鎮座する古社。江戸時代中期以降、庶民の間で講を組んでの社寺詣でが人気となったため、周辺には多くの宿坊が並んでいる。関東平野の農業を守る神山でもあり、毎年1月3日には農作物の豊凶を占う太占祭が行われる。
御岳山で江戸後期から営まれている宿坊。東京を一望できる「天空の自家農園」で栽培した野菜をふんだんに使った料理が好評。大広間には神殿が備えられており、宿坊ならではの神聖な雰囲気が感じられる。
「東京」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、
新宿、渋谷、銀座など高層ビルが立ち並ぶ光景ではないでしょうか。
そんなイメージからは想像しがたいかもしれませんが、実は東京23区内でも様々な地産地消が行われています。
今回、食や農業のエキスパート2人が都会の街並みを巡ってみると、
そこには、東京の食文化、歴史と伝統、そしてそこで奮闘する作り手の存在がありました。
ニュース番組のグルメリポーターや、畜産番組のリポーターとして全国の食の生産者を取材。また、野菜をつくる「ベジアナ」として農ある暮らしの豊かさをブログで発信。全国の農業・農村を取材し、メディアに執筆。「世界農業遺産カレンダー」を日本農業新聞より発売中。
https://www.ameba.jp/profile/ameba/ayumimaru1155/
東京生まれの料理研究家。豊富なアイデアとユーザーの目線に立った家庭料理のレシピはもちろん、軽快なトークも人気。都市農業にも関心が高く、NHKの番組では、東京の都市農業をクローズアップする「きじまりゅうたの都市農業×TOKYO」のコーナーを担当。
https://www.youtube.com/@kijimagohan
最初に訪れたのは、練馬区上石神井にある「ベジファームかのん」です。練馬区は23区内で最大の農地面積を誇る地域で、練馬区西部にはかつて農家が竹や薪の採取や防風の目的で使っていた「屋敷林」と呼ばれる雑木林が点在し、住宅と畑と雑木林がパッチワークのように広がっています。
2人を迎えてくれたのは、代々この土地で農業を営む高橋範行(のりゆき)さん。
毎年秋にはサツマイモ掘り体験を団体向けに実施しているそうで、2人も人気の品種、紅はるかの収穫を体験させてもらいました。
「すごい!土がふわっふわですね。虫も多くて、健康な土なのがひと目でわかります」と驚く小谷さん。
「土(サツマイモ)づくりは祖父のやり方にならって稲の藁を入れています。都心からお子さんがサツマイモ掘り体験に来られると、普段土に触ることがないので虫一匹見ても、お芋を掘っても、すごく喜んでくれますね。いい食育の場になっているのかなと思います」と高橋さんは笑顔で話します。
サツマイモの収穫は、畝(うね)の土を崩して実が見える状態にしてから引き抜くのがコツとのこと。鮮やかな赤紫色の実が見えるまでは順調でしたが、引き抜くのは思ったより力がいるようです。
「え?なかなか抜けない……すごい!1㎏くらいありそう!」
「よいしょ!とれたー!」
2人とも童心にかえって大喜び。無事、巨大な紅はるかを収穫できました。
練馬区内には農業体験を実施する農園がたくさんあります。またコインロッカーを使った庭先販売は「練馬式」と呼ばれるほど地域に定着しており、公式アプリ「とれたてねりま」で、庭先販売や農業体験の情報を探すことができます。もちろん「ベジファームかのん」にも無人直売所があり、この日はサツマイモ、サトイモ、栗、シイタケ、ダイコン葉などが販売されていました。
高橋さんによると、区外から買いに来る人も多いそうで、都心(近隣)の住人にとっては練馬が一番近い野菜の産地であることを実感するといいます。また、消費者は周辺にたくさんいるので、高橋さんはビジネス交流会などで知り合った、レストラン、ラーメン、ピザ、パン、洋菓子などの店に直接野菜を卸しているとのこと。店からリクエストを受けて、新たな品種に取り組むこともあるそうです。
「都市農業には、畑が狭くて生産量が限られるなどの制約もあるでしょうけど、一方近くに巨大な消費地があるから、自分の野菜や農園について知ってもらえるチャンスがたくさんある。それは23区の農家さんの強みかもしれませんね」と、感心するきじまさん。
都市農業には、農業従事者の高齢化や人手不足、収益の安定化が難しいといった課題がありますが、こうした背景を踏まえて、「でも今の時代、農業を継ぐことに迷いはなかったですか?」という小谷さんの質問に、高橋さんはこう話してくれました。
「伝統ある農地を守っていくのは大切なことだと思っていたので、迷いはありませんでした。でも就農してからの8年で、人手がないと作業が回らないことも実感したので、最近は、福祉施設を通じて障害をお持ちの方に農作業の手伝いをお願いする「農福連携」に取り組んだり、加工品づくりや長期保存の方法を導入したりして、都市農業を持続可能にするための工夫を模索しています」。
生産者の方々の熱意と工夫で、東京で新しい都市農業の歴史が刻まれていることを学びました。
そんな生産者の想いを受け継いだ料理が味わえる店「小料理石井」でランチをすることに。店主の石井公平さんは都心の料理店で勤めた後に、地元の練馬区大泉で店を構えた経歴の持ち主。練馬区内で生産された野菜や東京の伝統野菜「江戸東京野菜」をふんだんに使った、美しい和食が人気です。
「地元の野菜を使い始めたのは、実家の近所で開かれていた『緑と農の体験塾』に参加して、週末農業を始めたのがきっかけです。体験塾で農家さんをたくさん紹介していただいたこともあり、今は20軒弱の農家さんのお世話になっています」と石井さん。
きじまさんの「地元の野菜を使う良さは、どんなところですか?」という質問に、石井さんは「やっぱり鮮度ですね」と即答し、こう続けます。
「市場に届くものは、畑からうちの店に届くまで中2日かかりますが、地元なら、その日にその場で採ったものが使えます。鮮度は味に出ますから、その差は大きいです」。
とはいえ、気候により不作になることもあれば、手間がかかる野菜は農家が作りたがらないという難しさもあるようで、取引が農家の負担にならないような配慮も必要とのこと。
「農家さんとの人間関係をつくることも大事だなと感じますね。例えば江戸東京野菜の内藤かぼちゃは、種の保存のため調理後にかぼちゃの種を農家にお返しする必要があるので、一般には流通していません。農家さんの信頼を得て取引をさせてもらうことで、お客様にもこの伝統野菜を楽しんでもらえています。」と石井さんは話します。
また、石井さんは直接農家に野菜を取りに行くため、日々、家と店、農家、築地市場を行き来しているとのこと。忙しくても畑に行くのは、それだけ畑で得られるものが多いからだそうです。
「新しい料理を考えるのは結構大変な作業で、私の料理の師匠は困ると料理の本を見ていました。でも、私の場合は、畑に行けば野菜が教えてくれる。農家さんから、今日はカブがあるよ、もうすぐミカンができるよと声をかけられて、そこから料理を考えることもよくあります。畑を見て、献立をいかようにも変えられるのは自分の強みだと思います」。
そして、農家さんから独特な食べ方を教わることも多いのだとか。今年の夏は農家さんの食べ方を参考にした「ゴーヤのナムル」がヒット作になったそうです。
今回、ランチの焼き魚定食には色とりどりの野菜の料理が添えられていて、主役の魚に負けない華やかさ。
「お吸い物は西東京市の矢ヶ崎さんの後関晩生小松菜で、今朝、僕が買ってきたものです。カブは南大泉の高橋さんのところで昨日採ったもの。サツマイモは大泉の加藤さんのところのもので、土鍋ご飯とレモン煮にしています」と、石井さんはすべての料理に使われている野菜と生産農家の名前をセットで説明してくれました。土鍋のふたを開けるとふわっと湯気がたち、またもや歓声があがります。
「まさに採れたて、炊き立て、作り立てですね。すべてが畑から直送のお料理で、石井さんが農家さんと深く交流されていることが伝わってきます」と小谷さん。
色彩豊かで美しく、心まで温かくなるような料理の数々。東京ならではの地産地消を堪能して、笑顔満開の2人でした。
「この界隈は僕の地元なんですよ」。
きじまさんの案内で、豊島区西池袋にある銭湯、「妙法湯」へ。
三代目店主、柳澤幸彦さんについて、営業前の女湯に入っていくと、小さな浴槽に湯が張られ、ぎっしりと昆布が入っていました。この浴槽で10㎏分の昆布を洗い、ゴミやプランクトンを落としてから、お風呂に入れる「こんぶの湯」を、月に1回のペースで実施しているそうです。
「昆布にはプランクトンを増やして海の生態系を保つ働きがあるだけでなく、杉の木の5倍のCO2を吸収する効果があるため、環境保全を目的に東京湾で養殖されています。そのうち食用にならないものを豊島区内の銭湯に送ってもらって、『こんぶの湯』としてお客さんに楽しんでもらっています。昆布には化粧品にも使われるフコイダンという成分がたっぷり含まれているので、肌がすごく潤うんです」と柳澤さん。しかも銭湯で使用した昆布は、狭山茶の農家で肥料として使われ、食の循環にも役立てられています。豊島区の銭湯では、地元の小学生に昆布を洗う体験をしてもらっており、こうした一連の活動は、環境省の「グッドライフアワード」で特別賞を受賞したとのこと。
2人も特別に用意された昆布を洗い、きじまさんは「こんぶの湯」に入浴することに。
「昆布を洗ったときはぬるぬるしたけど、お湯はなめらかな感触で気持ちがいいです。それに、やっぱり昆布出汁のいい香りがする!おもしろい体験でした」ときじまさん。柳澤さんも「お客さんからは『おでんの具になったような気がする』と言われることが多いです」と笑っていました。
番台前で2人を待っていたのは、「伊良(イヨシ)コーラ」の代表、コーラ小林さんでした。イヨシコーラは2018年に新宿区下落合で創業したクラフトコーラ専門メーカーで、現在は多くの店で販売されていますが、実は銭湯から人気に火が付いたと言います。早速、イヨシコーラを飲もうとする2人に、「飲む前に缶を10秒ほど逆さにしてください。下に溜まっているスパイスが混ざり、プルタブを引いたときに、香りがふわっと広がります」と、小林さんから飲み方が伝授されます。
「10秒待ちました。飲みます!……なんだか懐かしい味がする。シナモンかな?」
「クローブかな?これはおいしい!風呂上がりには最高ですね」
「このイヨシコーラはどうやって誕生したんですか?」
興味津々の2人が聞き出したところ、小林さんは元々熱烈なコーラマニアで、会社勤めをしながら趣味でコーラを作っていたとのこと。「ある日、和漢方の職人だった祖父が残した、漢方配合の資料を参考にしてコーラを作ったところ、すごいものができた!と気づき、キッチンカーで売るようになりました。「伊良(イヨシ)コーラ」という屋号は、コーラ小林の祖父である和漢方職人だった伊東良太郎の工房・伊良葯工(いよしやっこう)から名付けられていて、祖父の工房があった下落合が創業の地になっています」と小林さん。漢方にゆかりのある商品だからこそ銭湯との相性が良かったのでしょう。コーラの残渣(ざんさ)から作られた入浴剤を入れた「イヨシの湯」は、都内の銭湯約450軒で実施され、大好評を博したそうです。
東京湾の昆布に都内で生産されるコーラ、そして銭湯という意外な組み合わせから、妙法湯で至高の癒しを体験した2人。妙法湯を後にして、小谷さんはしみじみと話します。「東京にはいろいろな人がいて、多様なカルチャーがあることを改めて感じますね。食という切り口に銭湯やコーラも入ってきて、そこにワクワクするようなエンターテイメント性も用意されている。その振り幅の大きさには本当に驚かされます」。
※「WELCOME!SENTO」の暖簾を掲出している銭湯では、多言語での接客やキャッシュレス決済などに対応しています。WELCOME!SENTOとは>>
妙法湯から徒歩数分で行けるのが、きじまさんも妙法湯の柳澤さんもよく飲みに行くという「CYCAD BREWING(サイカド ブルーイング)」です。「西池袋Mart」という古いロゴが残る建物は、かつて個人商店が集まる市場のような場所だったとのこと。大きなソテツが置かれた入口から中に入ると、アメリカのバーを彷彿とさせる空間が広がっており、カウンター奥に醸造所が見えています。
こちらは都内でクラフトビールの事業をしていた3人が集まって、2023年4月に始めたマイクロブルワリー。醸造長を務める藤浦一理さんは、アメリカの自家醸造コンペティションで、アメリカ人以外で唯一金メダルを受賞した醸造家でもあります。ブルワリーの内部を案内してくれた醸造家の福田哲也さんによると、ビールの仕込みから完成までは約1ヶ月。3つのタンクで計1200リットルのビールが作られるとのこと。
店名の「サイカド」は、ソテツを意味する英語で、クラフトビールの奥深さをソテツの多様性に重ね合わせているそうです。「多様性を大事にしたいので、月に4~5種類、年間だと50種類くらいのビールを作っています。同じビールでも麦芽やホップを変えてアップデートさせていますし、お客さんの声から新しい味が生まれることもありますね」と店長の植松康佑さん。
2人は特別に、カウンターに入ってサーバーからビールを注ぐ体験もさせてもらえることになりました。
メニューには9種類のビールがあり、植松さんが詳しく説明してくれるのでおのずと期待と興味が高まります。
「ホリダス3はうちの3作目にして、うちのフラッグシップ的ビールです。ヘイジーと呼ばれる濁りのあるビールで、苦味のないトロピカルな味わいです」。
「……フルーティですごく飲みやすい!」
「杉本・ザ・エルダーは、醸造スタッフ杉本君の卒業制作です。アメリカの伝説的なビール、プライニー・ザ・エルダーという伝説的なビールにちなんで命名しています」
「……ほろ苦いの来ました。おいしいー」
まさにクラフトビールの多様性。こんな調子で、どんどん2人のグラスが空いていきます。
現在、東京ではクラフトビールのマイクロブルワリーがどんどん誕生しています。サイカドブルーイングでは、近所のビアバーとコラボを行うこともあるそうです。新しいことに挑戦したいという人が集まってきて、その人たちが出会って科学反応を起こす、そんなムーブメントが起きやすいのも東京の魅力。植松さんによると、クラフトビール・ホッピングを楽しむために、他地域から東京にやってくるビール好きも多いそうです。またクラフトビールといえば、アメリカが本場ですが、植松さんは日本のクラフトビールのレべルも上がっているので、昔ほどの差はないと話します。「鮮度という点では、輸入する時間がかからないので、日本産のビールはとてもフレッシュでおいしいですよ」。
その言葉に反応したのが、きじまさんです。「やっぱりビールも鮮度が重要なんですね。これも地産地消のひとつのカタチで、今日のツアーがひとつに繋がった気がします。今日1日いろいろなところを巡って感じたのは、都心でなにか新しいこと、おもしろいことをやろうとしている方たちにとって、産地と消費地が近いことは大きなプラスになっているということ。人が作るものやその気持ちに触れること自体がおもしろい体験ですから、東京のガストロノミーの魅力が広く伝われば、もっとおもしろいことになりますよね」と、感慨深げでした。
人が自然と集まり、そこで新たな挑戦や交流が生まれることで、新しい食文化の萌芽が見られるのも東京の魅力のひとつ。
畑に和食、銭湯、クラフトコーラ、クラフトビール。暮らしに根付いた地産地消、東京の風土に根差した食文化を体験して、実際に訪れてみなければわからない、東京のおもしろさを再発見できた1日でした。
ご協力いただいた施設・お店をご紹介します。
練馬区上石神井にある約1100㎡の農場。年間で40種類弱の野菜や果物を栽培している。新鮮な野菜や加工品を販売する庭先販売も人気が高い。
西武池袋線大泉学園駅から徒歩3分の和食の店。地元の採れたて野菜や江戸東京野菜のほか豊洲市場で厳選した旬の魚など、鮮度抜群の美食が評判。
西池袋で三代続くまちの銭湯。生の真昆布を浴槽に入れた「こんぶの湯」は、肌に優しいだけでなく、使われた昆布を農業用肥料として再利用するなど環境にも優しい。
妙法湯から徒歩圏内にあるクラフトビールのバー。店内で醸造されるビールは年間で約50種類に達する。ボリューム満点のパストラミやソーセージもおすすめ。
世界有数の大都市、東京。
そんな東京の街中にも、昔ながらの野菜を作り続ける農家の方、
サステナブルなジン造りに取り組む方など、様々な想いを持つ食の生産者の方々がいます。
今回は、日々の生活の中では気がつかなかった、意識していなかった
一つ一つの食材の背景や生産者の想いに触れる素敵な食の旅にでました。
23才で渡仏し、パリ「オランプ」(1ツ星)、「ルカ・カルトン」(3ツ星)、「アルページュ」(3ツ星)にて研鑽を重ね、その他、パティスリー、ブーランジェリーなどで修行。
帰国後は池袋、恵比寿でシェフを経て、2013年にビストロ「イレール・人形町」をオープンし、以来オーナーシェフを務める。
“日本食材”を用いたフランス料理が話題となり、テレビ出演や雑誌での掲載経験多数。
野菜ソムリエプロ・江戸東京野菜コンシェルジュとしてコラム執筆、
レシピ提案、セミナー・料理教室講師として活動。
野菜・果物の魅力を伝える活動を行っている。
「谷中ショウガ」、「練馬ダイコン」に「内藤とうがらし」。
こんな名前の野菜をご存じでしょうか。これらは皆、ここ東京の地で愛されてきた野菜たちです。
旅の最初の目的地は、東京で古くから食され、
現代まで受け継がれてきた野菜の栽培に取り組まれている「ファーム渡戸(わたど)」さん。
有楽町線の平和台駅から歩いて10分ほどの場所に広い畑が広がります。
農園主の渡戸さんから、東京の伝統野菜(江戸東京野菜)についてお話を伺いました。
「江戸東京野菜」とは、種苗の大半が自給または、近隣の種苗商によって維持されてきた
昭和中期までの東京の在来種や、在来の栽培法に由来する野菜のこと※。
農園の入り口にある野菜直売所には、泥がついたままの立派な練馬大根や、
かごからこぼれるほど大きな葉っぱの芯取り菜(シントリナ)が、所狭しと積まれています。
それらの野菜は、その一本一本、一束一束がいい意味でバラバラで個性的。
まさに「今、隣の畑から採ってきた!」といわんばかりの顔つきの野菜が並びます。
大きさや形が不揃いになりがちで栽培も難しい「江戸東京野菜」。
それでも、練馬の地で、古くから繋がれてきた貴重な野菜を守っていきたい。
渡戸さんは、そんな想いで江戸東京野菜の栽培に取り組んでいるそうです。
今回は、渡戸さんのご厚意で、ごせき晩生小松菜の収穫を体験させていただきました。
収穫した傍から、土と濃い緑の香りが。
青々とした、大きな葉っぱが外側に向かって自由に広がっている様子に
力強い生命力を感じました。
※出典:JA東京中央会HP
近年、その土地をイメージした配合や、ゆかりの原料でつくられるお酒が世界的なブーム。
実は東京にもそんな特別なお酒を造る蒸留所が生まれています。
次なる目的地として、その中のひとつ、蔵前にある「東京リバーサイド蒸溜所」に向かいました。
大江戸線・浅草線蔵前駅の近く、隅田川へも徒歩圏の街中を歩むと、
ミントグリーンの日除けとシャッターが目を引く、蒸留所の入口が見えてきます。
周辺には、古い倉庫や工場跡をリノベーションしたカフェやバーも点在。
この蒸留所が入るビルも、以前は印刷所だったそう。
ビル1階のミントグリーンの日除けの下には、クラフトジンをテイクアウトできるスタンド。
その奥には、銅製の蒸溜器が見えます。
今回は、蒸留所を運営するエシカル・スピリッツのバーテンダー兼蒸留家 宮島さんに、
ジンの製造工程からご案内していただきました。
ジンは、穀物由来の蒸留原酒にジュニパーベリー(セイヨウネズの球果)とボタニカル(風味付け用の原料)で香り付けをし、再蒸留して仕上げられます。
実はこの蒸留所の原料のメインとなるものは、カカオの殻やコーヒー粕など、食品の加工過程で生みだされ、不要であるとして廃棄されてしまうもの。
例えば、東京リバーサイド蒸溜所の代表的なジンである「LAST ELYSIUM」には、
日本酒造りの行程で大量に生まれる酒粕を使用しているそう。
日本酒造りで使用されるお米のうち、酒粕となるのは全体の3-40%と言われていますが、
酒粕の算出量と消費量はバランスしていないため、廃棄されてしまうことも少なくありません。
そんな現状に対して、東京リバーサイド蒸溜所さんでは、廃棄されていたはずの酒粕焼酎を購入し、蒸留酒にアップサイクルさせる取り組みを通じて酒粕に新たな経済的価値を与えることで、日本酒の酒造、米農家、ジンの蒸留所をつないだ循環経済を生み出すことを目指しているそう。
「LAST」という英語には「最後の」という意味のほか、「続く」という動詞の意味がありますが、日本酒造りの最後に残された酒粕が、次の命へと続いていくという意味を、自社のジンに込めているとのことでした。
蒸留所を見学した後は、ビルの2階にあるバーダイニング「Stage」に移動。
1階で製造された3種類のジン試飲し、改めて、ジンに生まれ変わる前の食材の姿を思い浮かべながら、
それぞれのジンの香り高さを楽しみました。
どこか特定の地域の食材に関わらず、全国の魅力的な素材をフラットに受け入れることができるのが東京の魅力だと、
エシカル・スピリッツの宮島さんは言います。
大きな日本経済の流れの中で廃棄されるはずだったものがジンとして生まれ変わり、再び消費されていく。
その循環の拠点として、東京という場所は最適だと思っているとのこと。
世界中からあらゆるものが集まり、そして日々消費されている日本最大の経済都市・東京。
そんな東京で始まった、食と経済の循環を目指すチャレンジ。
蒸留家の想いが込められたクラフトジンの味わいを、多くの人に知ってもらいたいと思いました。
「東京リバーサイド蒸溜所」を発ち、最後は都内のキッチンスタジオへ。
日本橋人形町の自然派ビストロ「イレール人形町」のオーナーシェフ、
島田さんを講師に招き、渡戸さんが栽培した小松菜を実食しました。
今回のメニューは「ごせき晩生小松菜のポタージュスープ」です。
島田さん曰く、
今回採れたてのごせき晩生小松菜のおいしさをさらに引き立たせるために、通常は入れないシソを加えたとか。
食材の個性をより活かせるように、さらに参加者が自宅で作ることも考えて
レシピの考案に当たり思考錯誤を繰り返したそう。
私たちが、一つの食材の個性に対してここまで深く向き合って調理することは、
よほどの料理好きでもなければ、あまりないことでしょう。
日常ではあまりありませんが、考えてみれば小松菜一つ取ってみても、
いろいろな種類があることに今更ながら気がつきます。
食材の個性にひとつひとつ向き合って、最適な料理方法を探求する。
プロの料理人のこだわりが面白く、もっとお話しを聞きたくなりました。
普段何気なく食べている食材や料理、その一つ一つのビハインドストーリーに触れる旅。
スーパーで食材を選ぶ時間、馴染みの飲食店で食事を楽しむ時間。
意識はしていなかったけれど、そこにある背景や、生産者から込められたメッセージに思いをはせることで、
いつもの時間がいっそう素敵な時間に変わります。
それは、何気ない日常の中にある、未知との出会い。
さながら、食を通じた冒険の旅。
そんな食の旅に、あなたもでかけてみませんか。
ご協力いただいた施設・お店をご紹介します。
ファーム渡戸さんは練馬区平和台で、年間約30種類の新鮮野菜を生産直売しています。
練馬ダイコン・ごせき晩生小松菜・内藤トウガラシ等の江戸東京野菜は
約10種類を栽培しています。
「循環経済を実現する蒸留プラットフォーム」を目指し、
未活用素材を使用したクラフトジンの生産や、再生型蒸留所を運営する蒸留ベンチャーです。
“東京リバーサイド蒸溜所”はエシカル・スピリッツが東京蔵前に設立した、世界初のエシカル生産及び消費に特化した再生型蒸留所です。
世界有数の大都市でありながら、同時に豊かな自然が息づく街、東京。
都心部から電車で約1時間半、東京の北西部に位置する奥多摩町(おくたままち)。
町は豊かな森林が広がり、清らかな渓流を臨めます。
そんな奥多摩町へ、東京の水源域の自然と、食の魅力を巡る旅にでました。
東京都奥多摩町の山の中にあるわさび田でわさびを
栽培し、2020年3月から「わさびブラザーズ」として、
「TOKYO WASABI 」の活動を本格的に始める。
伝統ある奥多摩のわさび栽培を守りながら、
「奥多摩のわさびを世界へ」をテーマに様々な活動をしています。
旅の最初に立ち寄った、趣ある食の舞台「食事処ちわき」。
JR青梅線・青梅駅から車で30分ほどの古民家レストランです。
ここ「ちわき」さんでは、鮎や山菜など、まさに「地のもの」を堪能できます。
今回いただいたのは、奥多摩で獲れた鹿の焼き肉です。
昨今でこそジビエ※として注目を集めている鹿肉ですが、奥多摩では、古くから貴重な栄養源として食されてきたそう。
野生の鹿肉というと、もっと硬く、野趣に富んだ味を想像していましたが、口に運ぶと想像よりも柔らかく、噛めば噛むほどしっかりとした赤身肉のうまみが感じられます。
ちなみに鹿肉は天然のものなので、いつでも食べられるわけではないそう。
その時、その場にいないと食べられない食との出会い。これもひとつの旅の楽しみです。
※ジビエ・・・狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉
「食事処ちわき」を出発し、美しい山並みや、奥多摩湖を眺めながら車で30分。
奥多摩の特産品であり、寿司や刺身、薬味として日本食に欠かすことのできない、わさびの栽培地を訪ねます。
旅のガイドは、「わさびブラザーズ」の愛称で知られる角井仁さん・竜也さん兄弟のお2人。
わさび田へ向かうために、まずは沢歩きについてレクチャーいただきます。
レクチャーの後は長靴を履いて、わさび田を目指して奥多摩の沢を探索!
わさびブラザーズのお二人が、わさびについて色々なことを教えてくれました。
「わさびの生育のためには、きれいな水が必要不可欠」であることや、
「水に恵まれた奥多摩では、江戸時代から将軍家への献上品などとして、わさびが栽培されてきた」ことなど。
寒暖差の大きい奥多摩の自然で育ったわさびの生産量は日本第3位で、
料理人たちからも高く評価されているのだそう。
「SUSHI」はいまや世界的に有名な料理ですが、それにともなって国外でのわさびへの関心も高まっており、
奥多摩のわさび田を訪れる外国のお客様もいらっしゃるとか。
そんな海外で注目のわさびですが、現在、奥多摩のわさび農家の数は減少しており、高齢化が深刻な課題だそう。
伝統ある奥多摩のわさびが途絶えてしまわないよう、わさびブラザーズのお2人は、わさびを知ってもらうためのツアーを企画したり、食のイベントに出店する等、奥多摩わさびを広める活動を続けています。
わさびについてのレクチャーを受けた後は、辿り着いたわさび田で、わさびを実食。
わさびブラザーズの勧めで、採れたて、擦りたてのわさびを試食してみて驚き!
「甘い!」。わさびを食べて甘さが口の中に広がる感覚をはじめて体験しました。
甘い口当たりと同時に強いわさびの香りが鼻からスッと抜けていくと、
わさびの風味だけが舌に残り、辛みは全く後に残りません。
日頃食べている練りわさびとのあまりの違いに、本当に驚きました。
後で聞いたところによると、日頃慣れ親しんだ練りわさびと、今回いただいたわさびでは、栽培方法が違うのだそう。
日本人としてわさびの味はよく知っているつもりだっただけに、このような発見もまた、
生産地を巡る旅ならではの醍醐味だと思いました。
奥多摩の食の旅の締めくくりは、「山のふるさと村」でのそば打ちです。
誰かに作っていただいた食事を食べるのはもちろん楽しいですが、
自分の手で作った料理には、また違った美味しさがあります。それが家族や友達と一緒に作った料理ならなおさら。
そば打ちの後は、採れたてのわさびを薬味に、打ったそばを実食。
まさに、奥多摩で過ごした食の時間を凝縮したお蕎麦。
最後の食もまた、言葉にならないほどの、格別の美味しさでした。
日帰りで楽しめる東京における食の旅。
あなたの日々の食がもっと楽しく、素敵なものとなるよう。
「美味しいひと口」を探す食の旅に出かけてみませんか。
ご協力いただいた施設・お店をご紹介します。
東京の秘境 奥多摩町大丹波にある古民家レストラン。
鹿肉や猪豚のジビエ料理をはじめ、鮎を使った釜ど飯やきのこ・山菜を使った季節料理を提供されています。
東京都奥多摩町で昔から行われてきた伝統的なわさび栽培を行われているわさび農家。
年々農家さんの高齢化が進み、なくなってしまうかもしれない奥多摩のわさびを守りたい。
日本が誇る伝統や文化などの日本の宝を次の世代へと継承していきたい。
そして、日本原産のスパイスであるWASABIの魅力を世界にも発信していきたい。
そんな想いからわさびを通していろいろな活動をしていらっしゃいます。
秩父多摩甲斐国立公園内にある東京都の自然公園施設。 1990年10月に自然ふれあい施設としてオープンしました。
テント及びログケビン泊のできるキャンプ宿泊施設を併設している他、ビジターセンター、クラフトセンター、レストランが整備され、自然散策を楽しむトレイルも設置された複合施設です。
周辺地域の情報提供、自然体験の他、木工や石細工、陶芸などの工作の体験、ご宿泊など、来訪者のご希望に合わせてさまざまな体験が楽しめます。
「TOKYO GROWN(トウキョウ グロウン)」は、
東京で営まれている農林水産業の魅力を広く国内外に発信するウェブサイトです。
東京でとれた美味しい農産物を販売する直売所の情報などもご覧いただけます。
東京都産野菜の店舗受取型ECサービス「VEGESH TOKYO」は、
「東京から食の未来をつなぐ。」を掲げ、近いようで身近にない東京都産野菜が身近に購入できる地産地消プロジェクトを推進しています。