日本人とヴィーガンフード 東京の多様な食文化を楽しむ

Tokyo 食のリポート

日本人とヴィーガンフード 東京の多様な食文化を楽しむ

近年、アメリカやヨーロッパを中心に、世界中でヴィーガン(完全菜食主義者)の人口が増えています。世界のヴィーガンが増えてきたことで、日本を訪れる外国人観光客のニーズも増えていますが、日本でヴィーガンフードを見つけることは難しいという声もよく聞きます。そこで、多様なグルメの街・東京で見つけたヴィーガンフードと、日本の元祖ヴィーガンフードとも言える精進料理を紹介しながら、元々肉食でなかった日本人とヴィーガンフードの繋がりや、その歴史をご紹介します。

日本人は元々ヴィーガンだった? 菜食中心の食文化の歴史

乳製品を含む動物由来の食品を一切口にしない、完全菜食主義。
そう耳にするとどこか、浮世離れした印象を受ける方も多いのではないでしょうか。
健康志向や環境保護、動物愛護など志す理由は様々ですが、アメリカに限っても2000万人以上のヴィーガンがいると言われています。
世界的な広がりをみせる中でも、現代の日本においては、まだ一般的とはいえません。
しかし、長らくの間祖先たちは、ヴィーガンに近い食生活を送っていました。
土着の宗教観に仏教の戒律も相まって、肉食は忌むべきもの、との考えが身分を問わず浸透していたといいます。
7世紀には天武天皇により肉食禁止令が発布されるほどで、以後1000年以上にわたり大きな変化はありませんでした。転機となったのは明治時代、西洋化を押し進める政府が肉食を推奨しはじめたこと。それでも、広く普及したのはわずか数十年前、戦後に入ってからです。
歴史的にみると、日本人にとっては、肉食の方が新しい食文化だといえるでしょう。

肉食が文化的な禁忌とされたため、日本食は独自の発展を遂げたとされます。
一例として考えたいのが、日本の食卓ではおなじみの大豆です。
ヴィーガンに限らず菜食主義に共通する悩みとして、タンパク質の摂取が頻繁に取り上げられます。人間の体の70%を水分が構成していることは知られていますが、次ぐ第二の構成要素として、20%近くの割合をこの栄養素が占めています。
健康維持のために必要不可欠でありながら、肉食以外で完全に補完することは、難しいとされるこのタンパク質。しかし例外もあり、「畑の肉」とも称される大豆には、本物の肉に匹敵する量が含まれているのです。そのため、ヴィーガンの間でも代替食として重宝され、日々様々な調理法が編み出されています。
日本食において、豆腐や味噌、納豆など大豆の加工食品が多いのは偶然ではありません。
貴重なタンパク源として重宝され、多様な利用方法が生み出されてきた歴史があります。
大豆を使用した菜食中心の食文化は、時代とともに、精進料理や懐石料理へと進化していきました。日本食の礎として、今日も大きな役割を果たしています。

日本人とヴィーガンフード 今注目を集める精進料理とは

日本における菜食中心の食文化には、仏教が深く関わっています。
6世紀の仏教伝来とともに広まった教えの一つが、不殺生戒。つまり、生き物を殺してはいけないとの戒律です。土着信仰として根付いていた神道の「穢れ」の概念もあって、国内へ浸透していくとともに、7世紀の肉食禁止令の発布にも繋がりました。
禁止令発布により、人々の模範を示すべき僧侶たちの食事は、厳しく制限されたと伝わります。この頃に、元祖ヴィーガンフードとも呼ばれる、精進料理の原型が誕生したのです。
その姿は今とは異なり、調理法や味付けは未熟で時には魚を食べることも。
精進料理が現在の形に落ち着くにあたっては、鎌倉時代に起きた禅宗の流入が大きく影響しました。日本における曹洞宗の開祖である道元禅師により、当時の宋から持ち帰った教えが色濃く反映され、より宗教色を強めていったと考えられています。

その名が示す通り、仏教における修行をルーツに持つ精進料理。
戒律を厳守するため、一切の殺生を省いて作られるのみならず、食事中の作法や心得も含めて重要とされています。
その他の料理と比べて、大きな特徴と呼べるのが「三徳六味」と呼ばれる極意の存在です。
甘い・酸っぱい・苦い・辛い・塩辛い、の基本となる五味に加えて、第六の要素として淡味(たんみ)を重視しているのが特筆すべき点といえます。淡味とは、素材の持ち味を活かす目的で、あえて薄味に料理を仕上げることを意味しています。
一方三徳とは調理における指針であり、軽くて柔らかい口あたりをもち、清潔かつ、作法に従った形で完成させることが求められます。その他にも、五葷(ごくん)と称される食材は料理に使用できません。ニラやらっきょう、玉ねぎなど、これらは煩悩を刺激するとして忌避されています。
ヴィーガンフードとは発祥が異なる精進料理ですが、共通している部分もあります。
もどき料理と呼ばれ、肉や魚の食感や味わいを再現した調理が行われていました。
代替食として注目を集める「大豆肉」なども、精進料理から着想を得たとされています。

東京で進化を続けるヴィーガンフード 肉食グルメも驚く美味の秘密

コロナ以前は年間1500万人を超える外国人観光客が訪れていた、美食の都・東京。
世界中の食通たちをもてなすこの街には、体質や宗教・思想的理由で食事制限が必要な人々を含めて、誰もが満喫できる絶品グルメがあふれています。
まずは、日本の元祖ヴィーガンフードこと精進料理について。
食べるためには宿坊へ泊まらねばならない、と考えられがちですが、そんなことはありません。都心部だけで、10以上もの飲食店が精進料理を提供しています。中にはミシュランの星を獲得したところも。さらに、東京都小金井市に位置する尼寺・三光院では、由緒正しい精進料理を実際にお寺の境内にて堪能することができます。
ヴィーガンとは一部異なりますが、ハラル認証を獲得している飲食店も年々増加中です。
ハラルとはイスラム語で「許されているもの」を意味し、認証店では、イスラム教の戒律に則った形で調理された料理を提供しています。豚肉を使用しない等の特徴があり、ヴィーガン同様、健康食としても注目を集める存在です。

もちろん、新進気鋭のヴィーガンフードを味わう食べ歩きもおススメです。
例えば、本物の肉と見粉うほどの再現性を誇る、大豆肉のハンバーガーはいかがでしょうか。口にした時の食感や味わいさえ、肉好きでも大満足のクオリティです。
また、動物由来の乳製品を一切使用していないパンケーキも大人気。オシャレな店内にて健康食を楽しむことができます。
高カロリー食の代名詞として知られるラーメンさえ、東京ではヴィーガンフードとして進化しています。スープにいたるまで100%植物性にもかかわらず、通常のラーメンと遜色ない味わいで、誰もが美味しいと思える逸品に仕上げられています。
ファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)のように、世界の様々なヴィーガンフードをいただけるレストランもここ数年で増えています。時流に敏感で、いち早くニーズを取り入れることのできる懐の深さこそが、東京がグルメ都市であり続けられる由縁だと考えられます。想像もできなかったような、新たな絶品グルメの誕生も近いかもしれません。

最近東京ではコンビニやスーパーでもヴィーガンフードが入手しやすくなり、以前に比べ一般の家庭でも取り入れやすくなってきました。
まだまだ進化を遂げそうな東京のヴィーガン事情。古来から繋がる菜食主義の流れを汲む日本だからこそ体現できる可能性が、まだ眠っていそうです。日本食とヴィーガンの化学反応が何を生み出すのか、これからも目が離せません。