ラグジュアリーホテルが取り組む食のサステナビリティ

Tokyo 食のリポート

ラグジュアリーホテルが取り組む食のサステナビリティ

東京を代表する高級ホテルが、サステナブル(持続可能)な食の提供に力を入れています。ラグジュアリーな「おもてなし」に、食品ロス削減や海洋資源保護といった新たな価値を加える帝国ホテル東京、ホテルニューオータニ、パークハイアット東京の取り組みを紹介します。

じゃがいもの皮、料理長監修でフレーバーソルトに 帝国ホテル

 日比谷公園の向かいにある帝国ホテル東京では、ホテルショップ「ガルガンチュワ」でオリジナルのフレーバーソルト「サステナブルソルト」を販売しています。2021年(令和3年)9月に発売した第1弾の「根菜」に続き、2022年(令和4年)1月には「柑橘」も登場しました。

 どこがサステナブルなのでしょう? 実は館内の調理過程で発生した、料理で使われることが少ない食材を材料にしているのです。「根菜」は、じゃがいもの皮を低温のオーブンで焼き上げ、パウダー状にして塩と混ぜたもの。「柑橘」はグレープフルーツの白い部分を使っています。それぞれの素材の香りが料理の味を引き立たせます。

 サステナブルソルトは、帝国ホテル東京料理長の杉本雄さんが考案・監修しました。杉本さんは、フランスの有名レストランで腕を磨き、38歳の若さで東京料理長に就きました。「食材にリスペクトを持って対峙(たいじ)し、余すことなく使い切る。サステナブルソルトのベースにあるのは、そんなフランス料理の考え方です。皮は、食材の個性がぎゅっと凝縮した場所なのです」と解説します。

帝国ホテルのサステナブルソルト。ギフト用の専用箱は、塩を振った様子をイメージしており、杉本料理長がデザインを担当したそうです=帝国ホテル提供
帝国ホテルのサステナブルソルト。ギフト用の専用箱は、塩を振った様子をイメージしており、杉本料理長がデザインを担当したそうです=帝国ホテル提供

 ガルガンチュワの人気商品の一つ、ポテトサラダをつくるため、帝国ホテルでは毎日何十キロものじゃがいもをボイルし、皮を取り除いています。「この皮を余らせるのでなく、使いきりたい」。サステナブルソルトは、杉本さんのそんな思いからスタートしたといいます。

 こだわりはほかにもあります。塩は、オーストラリアの世界自然遺産・シャークベイの海水からつくった天日塩で、環境負荷が低いのが特徴だそうです。さらに、商品の売り上げの一部は海洋ごみ問題の解消に取り組む環境団体に寄付されます。

帝国ホテル東京料理長の杉本雄さん=東京都千代田区
帝国ホテル東京料理長の杉本雄さん=東京都千代田区

 使い道は幅広く、例えば「根菜」なら「じゃがいもを使った料理やじゃがいもが合う料理であれば、何にでも合う」(杉本さん)といいます。キャベツの外側の葉っぱを活用した新商品の発売も予定しているそうです。

 帝国ホテルは、西欧化を進める明治政府からの要請を受けた実業家・渋沢栄一らの旗振りで1890年(明治23年)に開業し、東京の「おもてなし」をリードしてきた名門です。2020年には、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)への対応を進めるため、既存の「環境委員会」を「サステナビリティ推進委員会」に改め、食品ロスの削減にも力を入れています。

 杉本さんはサステナブルソルトについて、「ラグジュアリーとサステナビリティの両立を、食の面で表現していきたいと考えました。非日常の空間を求めるすべての方に味わっていただきたいです」と話しています。今後は、ロスを出さないフランス料理のレシピづくりにも挑戦していきたい、といいます。

生ごみを肥料化、育った野菜がカクテルに ホテルニューオータニ

 政治の中心地・永田町にほど近いホテルニューオータニのメインバー「バーカプリ」では、「サステナブルカクテル」を味わうことができます。2021年から期間限定で展開しており、第4弾でほうれん草を使った「Re.Sprout」が、2022年2月末まで提供されています。

 Re.Sproutは、ジンをベースにリンゴジュースなどを合わせたカクテル。1株分のほうれん草にジンなどを加え、ブレンダーで攪拌(かくはん)し、茶こしでこして、おしゃれな1杯に仕上げます。考案したバーカプリのマネージャー吉田宏樹さんは、「ほうれん草の渋みを生かしつつ、ジンのボタニカルな香りや、フルーティーなテイストがうまく混ざった味わいです」と表現します。

サステナブルカクテル「Re.Sprout」を創作するバーカプリマネージャーの吉田宏樹さん=東京都千代田区
サステナブルカクテル「Re.Sprout」を創作するバーカプリマネージャーの吉田宏樹さん=東京都千代田区

 吉田さんは、2019年(令和元年)にバーテンダーの世界大会「ディアジオワールドクラス2019」で部門優勝した経験を持つ日本のトップバーテンダーです。大会出場のために渡欧した際、オランダの有名な蒸留所を訪ね、関係者からSDGsへのこだわりを聞いて刺激を受けたといい、「日本でも何かやらなければ」と感じたそうです。

 「バー業界では、果物を絞った後の皮など廃棄される食材が意外と多く、サステナビリティへの注目が高まっています。バーテンダーや蒸留所の間では、以前から廃棄をなくそうという活動が生まれているのです」(吉田さん)。

 吉田さんが目をつけたのが、ホテルの生ごみから育った野菜や果物でした。ホテルニューオータニでは、生ごみを堆肥(たいひ)に変えるコンポストプラントを1999年(平成11年)から導入し、館内のレストランやバーで1日約5t出る生ごみを100%リサイクルしています。できた堆肥は契約農家に販売され、野菜や果物を育てるのに使われます。そして、収穫された農作物がホテルに戻ってきて、従業員食堂などで提供される――。そんな循環ができています。「サステナブルカクテル」の材料は、こうしてつくられた野菜や果物です。

ホテルニューオータニの館内にあるコンポストプラント=東京都千代田区
ホテルニューオータニの館内にあるコンポストプラント=東京都千代田区

 サステナブルカクテルは2021年春、トマトを使ったカクテルからスタートしました。梨を使った第三弾の「Re.Pear」は、お客さんから特に好評だったといいます。吉田さんは「食材の風味を消さずに、カクテルのなかに生かすのが難しいところです。お客さまの期待をいい意味で裏切れるよう、見た目にもこだわっています」と明かします。

 吉田さんはレモンやグレープフルーツを搾ったときに出る皮を活用してシロップにするなど、カクテル以外にも食品ロスを減らす工夫をしています。「SDGsには今後もいろいろと取り組んでいくつもりです」と話しています。

「持続可能」認証を得た魚介類を35%使用 パークハイアット東京

 東京都庁に近い新宿パークタワー。その高層階にあるパークハイアット東京のレストランでは、持続可能な漁法でとられたことを示す国際認証を得た魚介類を積極的に使用しています。

 最上階の52階にあるレストラン「ニューヨークグリル」をランチタイムに訪ねると、ビュッフェに並んだ「サーモンのディルクラスト」の皿の近くに、魚をあしらったロゴマークが掲げられていました。ASC(水産養殖管理協議会)の認証マークです。

 ホテルで取り扱う認証品は、ASC認証のアトランティックサーモンやマダイ、バナメイエビなど6種と、「海のエコラベル」として知られるMSC(海洋管理協議会)認証のカツオやマグロ、計10種です(2022年1月時点)。館内で使う魚介類の約35%をこれらの「サステナブルシーフード」が占めています。

レストラン「ジランドール」で提供された、認証を得たサーモンを使った「サステナブルアトランティックサーモンのマリネと文旦 サバイヨンソース」(2022年1月のメニュー)。サステナブルシーフードのなかで、サーモンは特によく使われているそうです=東京都新宿区
レストラン「ジランドール」で提供された、認証を得たサーモンを使った「サステナブルアトランティックサーモンのマリネと文旦 サバイヨンソース」(2022年1月のメニュー)。サステナブルシーフードのなかで、サーモンは特によく使われているそうです=東京都新宿区

 ホテルを運営するハイアットホテルズコーポレーションは米国シカゴに本拠を置き、世界各国で施設を展開しています。2014年(平成26年)8月にグループ全体でサステナブルシーフードの使用を進める方針を発表しました。これを受けてパークハイアット東京でも体制を整え、2015年(平成27年)5月に国内ホテルとしては初めて、MSC・ASC認証を得た魚を扱うことのできる「CoC認証」(Chain of Custodyの略)を取得しました。

 「今でこそ、サステナビリティという言葉は当たり前になりましたが、当時はほとんど知られていませんでした」(資材部マネージャーの田口朋浩さん)。認証には厳しい基準があり、細かな情報を入力できるよう発注システムを見直すなど、トレーサビリティー(追跡可能性)を確保する仕組みづくりが欠かせませんでした。従業員の理解を深めるための研修もおこなったそうです。

 これまでの取り組みのなかで特に注目されるのが、2020年10月に世界のホテルで初めて、MSC認証を得たタイセイヨウクロマグロの提供を始めたことです。供給したのは、宮城県気仙沼市に拠点を置く水産会社・臼福本店で、タイセイヨウクロマグロ漁がMSC認証を取得したのも世界初でした。海洋資源保護に力を入れるパークハイアット東京の姿勢に共感した臼福本店が、貴重な魚の供給を決めたそうです。

「ニューヨークグリル」で提供された「サステナブル中トロのグリル トマトと山葵チャツネ ライム」(2020年秋のメニュー)=パークハイアット東京提供
「ニューヨークグリル」で提供された「サステナブル中トロのグリル トマトと山葵チャツネ ライム」(2020年秋のメニュー)=パークハイアット東京提供

 四方を海に囲まれ、魚の種類も調理方法も多様な日本では、認証品の割合を高めていくのは簡単ではないといいます。田口さんは「単に数字を上げることは目指していませんが、認証品を使うことはお客さまにとっての安心感にもつながります。一皿を召し上がっていただくことで地球の海が保たれる取り組みを、いろいろな方に知っていただきたいです」と語っていました。