飲食店が南池袋の街を変える!
生産者と街のことを考えた
グリップセカンドのアプローチ

Tokyo 食のリポート

飲食店が南池袋の街を変える!
生産者と街のことを考えた
グリップセカンドのアプローチ

飲食店をつくる際、まずはどのように利益を出すかを考えるのは経営の鉄則です。しかし、全く別のアプローチを取って成功している会社もあります。それが株式会社グリップセカンドです。自社が提供できる価値をしっかりと理解した上で、生産者と街のためになる取組を続け、多くの人に愛される飲食店をつくっています。多くの外食企業がベンチマークする、その経営の全貌を伝えていきます。

南池袋の街を変えた、グリップセカンドが提案する店の力

近年、ひと昔前の猥雑なイメージから脱却し、池袋が新たに生まれ変わろうとしています。池袋西口公園の「GLOBAL RING」や「ハレザ池袋」が誕生するとともに、赤い車体が特徴の電気バス「IKEBUS」が街を巡り、文化と芸術の都市に変貌を遂げようとしているのです。

特に注目のエリアが南池袋です。2015年に豊島区役所がオープンしてから再開発が盛んになり、意欲的な飲食店も続々とオープンして感度の高い方が集まるエリアになっています。その流れを牽引しているのが、株式会社グリップセカンドです。同社は2005年の創業以来、街との関係性を大切にしながら南池袋でドミナント展開を続けています。本店である「GRIP」をはじめ、09年にオープンした「RACINES Boulangerie&Bistro」や大人のための居酒屋「〆蕎麦 フクロウ」、隠れ家焼肉「扉ノムコウ」など多彩なブランドで、街に彩りを加えてきました。

南池袋で高い人気を集めるRACINES Boulangerie&Bistroは大人が楽しめるビストロ
南池袋で高い人気を集めるRACINES Boulangerie&Bistroは大人が楽しめるビストロ

現在、展開している飲食店は、池袋を中心に11店舗です。この他にも、ベーカリーやドーナツ・アイスクリームの専門店も運営しています。飲食店に関しては、全て異なる業態で、同じものは一つとしてありません。なぜ、そうしたことが可能かというと、生産者との結び付きを大切にしながら業態づくりをしているからです。その詳細について、同社代表取締役社長、金子信也氏も次のように話しています。

「現在、全国の60以上の生産者の方とつながっており、酪農や畜産、漁業を含めて全て直接取引をしています。池袋でドミナント経営しているのも、食材を一括で仕入れして管理できるからです。当社では料理ありきで食材を発注することはありません。全国から届く食材がまずあって、それをそれぞれの業態で一番良い状態で味わえる料理にしています。それが僕らの業態開発の原点です」

こうした方法を取っているので、店舗で提供されるメニューは仕入れ状況によって毎日違います。定番メニューは何品かありますが、基本的に同じメニューはありません。そうした取組が身を結び、同社の廃棄ロスは1%台という驚くべき水準です。昨今話題の環境・社会・経済の持続可能性に配慮したサステナビリティ経営を、意識することなく、先取りしていていることにも驚かされます。

地域にあって嬉しいのは、どこにでもある飲食店ではなく、地元に根付いて一からつくり上げられた飲食店です。同社では地域の方々とコミュニケーションを重ね、進化をすることこそ飲食店の存在意義だと捉えています。生産者とはもちろん、地域の方ともしっかりと繋がっているからこそ、街を変えるほどのインパクトを持つ店ができるといってもいいでしょう。

生産者との結びつきを強め、地域の信頼を得たアプローチ

2020年4月に、史上初となる緊急事態宣言が発出されました。そのとき、同社では4つの方向性を定めています。それが「産地を止めない」「街を止めない」「街の舞台装置であるレストランを止めない」、そして、「医療従事者と同等の覚悟を持つ」の4つです。中でも最も大切にしたのが「産地を止めない」に他なりません。創業以来、大切にしてきた価値観とあらためて向き合うことで、同社は飛躍的に進化を遂げています。

キーワードはずばり「except for A」です。B品、C品の野菜や果物でも、生産者の方にとってはA品と育てる労力も、収穫の大変さも変わりません。それにもかかわらず卸先がなく、廃棄される食材も多くありました。そこで同社ではB品、C品を加工した商品を開発するだけでなく、生産拠点となるセントラルキッチンもつくり、ダイナミックな事業展開を行いました。こうして完成したのが、色鮮やかで果実のおいしさが詰まったドーナツとジェラートです。

その販売拠点の一つになっているのが、南池袋公園に16年にオープンした「RACINES FARM TO PARK」です。同店は豊島区と官民連携を図りながら運営を行う公園レストランとして、幅広い世代から人気を集めています。多くのレストランはお客様に「いらっしゃいませ」と声を掛けるでしょう。しかし、同店ではお客様かどうかは関係なく、店の前を通る人には「こんにちは」「こんばんは」と声を掛けています。こうしたコミュニケーションができるレストランは、日本にあまりありません。こうしたコミュニケーションを行っているため、スタッフとお客様はもちろん、街の人とも顔馴染みです。いわばRACINES FARM TO PARKは、南池袋のコミュニティとなっているのです。

そうした関係性があるからこそ、誰がどういう思いでつくった果物なのかはもちろん、なぜそれをドーナツやジェラートにするかも伝えることができます。飲食店を通して、生産者とお客様がつながり、生活に豊かさをもたらす。それこそ、飲食店の存在意義だといっても過言ではありません。

青山、目白と、グリップセカンドの哲学が東京の街に彩を加える

2021年9月27日に北青山の複合施設「ののあおやま」にオープンした「RACINES AOYAMA」は、同社の一つの集大成になるかもしれません。

同店をオープンするときに大切にしたことは、地域の人との対話です。そもそも青山は明治神宮や赤坂御所といった都内有数の緑地に囲まれています。そうした森は人の手によって作られて、100年もの時間をかけてつくられてきました。その森を活かしながら、次の100年の街をつくっていこうというのが「ののあおやま」です。

このプロジェクトは地域住民の方が中心となって進めてきたからこそ、同社も地域の方との対話を重ねました。業態の構想を描く前には、何を必要としていて、どんな未来を想像しているのかを時間をかけて話し合っています。その上で「街の人をもてなすためのビールがあったらすてきだな」とか「全国の食材が青山に集まってきたら暮らしが豊かになるな」とコンセプトを決めてRACINES AOYAMAの構想を固めていきました。そのときの様子について、金子氏はこのように話しています。

「地域に住んでいる方々と僕らがどのように歩んでいくかということは、レストランを成功させる上でとても重要です。僕らはレストランが地域に愛されるようになるまで時間がかかることにストレスがありません。地域とともに成長していく過程を楽しむことができます。そうしたグリップセカンドならではの強みを活かして、RACINES AOYAMAをつくり上げていきました」

RACINES AOYAMAは、ブルワリーを併設したオールデイダイニングですが、ドーナツやアイスクリームを中心に販売する物販店「RACINES DONUT&ICE CREAM」が隣接し、同店ではコールドプレスジュースのプロダクトブランドである「LIKE ME」の商品も販売。街の人が必要としているお店を、街の人と足並みをそろえて育てています。

地域の人たちの声を反映して、RACINES AOYAMAには自社醸造が可能なブルワリーを併設
地域の人たちの声を反映して、RACINES AOYAMAには自社醸造が可能なブルワリーを併設

また、2021年12月には豊島区目白に「RACINES ORGANIC」と「RACINES BREAD&DONUT」をオープンさせました。場所は「TRAD目白」という商業施設です。コロナ禍では商業施設から多くの飲食店が撤退しました。TRAD目白も同じような状況に見舞われています。そこで同社が持っている商品やアイデアを活かして、少しでも施設のためになれたらと思って出店を決定。現在、たくさんのお客様と、たくさんの生産者がつながる場所になるように地域とともに歩みを進めています。

昨今、サステナビリティ経営の盛り上がりを受けて、多くの企業が社会的な価値と経済的価値をともに創造するCSV経営の実現を目指しています。しかし、飲食業界ではコロナ禍の影響もあって、まだまだ根付いていないのが現実です。その中で、まずは生産者や地域のことを考えた上で必要とされる店づくりをし、しっかりと利益を出しているグリップセカンドの経営スタイルは時代を先取りしているといえるでしょう。

地元の方に長く愛され、街の歴史の一部を形づくる飲食店も、東京の食が持つ魅力の一つであるのは間違いありません。